研究実績の概要 |
心内膜床は将来の中隔や弁を形成する原基であり、胚心臓の房室管(心房と心室の間)および流出路に形成される。心内膜床は、原始心筒の心内皮細胞が心筋細胞からのシグナル分子により間葉に分化し、形成される(上皮-間葉形質転換)。これまでに心筋からのシグナル分子としてBMP(骨形成因子)を同定したが、間葉形成にはBMPの他に wntシグナル(βカテニンを経由)が必要であることを明らかにしつつある。しかし、心臓に発現する既知のwntは間葉形成を誘導しなかった。一方、分泌因子Rspo3はwntシグナルを活性化する可能性が指摘されている。本研究では、心内皮細胞の間葉への形質転換におけるRspo3の役割を明らかにすることを目的にしている。これまでにニワトリRspo3遺伝子の全領域をクローニングし、Rspo3 mRNAの心臓での発現局在を調べ、心内膜床に発現することを明らかにした。またRspo3タンパク質を用いた生物検定では、Rspo3単独では心内皮細胞の形質転換を誘導しないことを示した。本年度は、Rspo3タンパク質とともに働く液性分子の協調作用について調べた。心内膜床形成領域に発現し、その機能がよく分かっていないwnt11をRspo3とともに培養心内皮細胞に作用させてみたが、間葉への分化は誘導されなかった。さらに、Rspo3、wnt11、BMP2を同時に作用させてみたが、心内皮細胞の間葉分化を誘導することができなかった。一方、Rspo3のファミリーであるRspo1, -2, -4についてクローニングし、心臓発生過程での発現局在を調べた。その結果、Rspo2は心臓全体に発現していたが、Rspo1, -4は心内膜床形成期の心臓には見られなかった。
|