研究課題/領域番号 |
24590247
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
岩永 ひろみ 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30193759)
|
キーワード | 細胞・組織 / 発生・分化 / カルシウム画像 |
研究概要 |
カベオラと一次線毛は,受容体や細胞内信号系分子が集まる機能区域として細胞極性を統御する。ラット頬ひげ動き受容器槍型知覚終末の単極形終末シュワン細胞は,丸い細胞体から一本の索状突起をのばし,その先が分かれて軸索終末のグリア鞘をなす。各グリア鞘にはアデノシン三燐酸(ATP)受容体とその共役G蛋白がカベオラとともに集積し,局所刺激に応じて独自のCa信号を生成する細胞内区域を構成している。本研究は,終末シュワン細胞の極性発達過程をカベオラと一次線毛に注目して明らかにする目的で,線毛マーカーの免疫組織化学と通常の透過電顕によって生後4週令ラット頬ひげ槍型終末にみられるグリア特異蛋白S100陽性細胞の多様な形態を解析し,また,S100-GFP遺伝子改変ラットの槍型終末分離標本でS100陽性細胞をGFP緑色蛍光で同定し,刺激に対する細胞応答を赤色蛍光Ca指示薬X-rhod-1で記録分析した。 槍型終末周辺のS100陽性細胞は,星形シュワン様細胞,単極形終末シュワン細胞,両者の中間形の3種に分けられた。星形シュワン様細胞は多数の細い自由突起を放射し,毛包基底膜に対向する面の中央から長い一次線毛を出しており,線毛周囲膜ポケットにカベオラが密集した。中間形細胞は,槍型終末に近い細胞体半球から3-5本の突起をのばし,それらの一部は軸索終末に伴行していた。比較的短い線毛が,突起の集まる細胞半球中央にみられた。単極形終末シュワン細胞は,索状突起基部にまれに短い線毛をみせた。これらの所見は,終末シュワン細胞の成熟に伴う極性変化に軸索との接触が重要な意義をもつことを示唆する。 S100-GFPラットから分離した槍型終末にX-rhod-1を負荷してCa画像記録し,星形シュワン様細胞がG蛋白共役型ATP受容体を機能的に発現していること,そのCa応答は,カベオラの集まる細胞体中央から始まることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
線毛・カベオラなど観察目的構造物のマーカー物質の免疫組織化学と連続超薄切片の電子顕微鏡観察を生後4週令ラット頬ひげ槍型終末について集中的に行い,星形シュワン様細胞から中間形を経て単極形終末シュワン細胞に至るまでの微細形態特徴の連続的変化を詳細にすることができた。 S100-GFP遺伝子改変ラットの頬ひげ毛包から分離した槍型終末の無染色生標本で,星形シュワン様細胞をGFP緑色蛍光で同定し赤色蛍光プローブでCa画像解析する実験系を確立した。この系を用いて,星形シュワン様細胞の細胞外ATP刺激に対する応答の薬理学的特徴や時空特性の解析が効率的に進められるようになった。
|
今後の研究の推進方策 |
感覚装置の発達・維持・再生のため星形シュワン様細胞が単極形終末シュワン細胞として分化・動員される過程を詳細にする目的で,S100-GFP遺伝子改変ラットの頬ひげ槍型知覚終末を材料とし,以下の実験を行う。 1.ホルマリン固定した凍結切片または分離組織標本で,神経軸索,カベオラ,線毛などのマーカー物質に対する抗体を用いた二重蛍光免疫染色を行い,シュワン細胞に特異なGFP蛍光と同時に観察して,星形シュワン様細胞の形態変化と周囲細胞との相互関係を統合的に把握する。 2.分離生組織標本に赤色蛍光プローブを負荷し,GFP蛍光で同定された星形シュワン様細胞に細胞外からATPなど刺激を与えてCa画像記録し,細胞応答の責任受容体分子種,時空特性とカベオラや線毛との関係を検討する。 3.分離生組織標本を酵素処理して星形シュワン様細胞・単極形シュワン細胞をGFP蛍光を指標としてセルソーターで分離し,細胞の分子的性質を解析する。 4.GFP蛍光を発しない通常のラット・マウスで,上記1,2と同様の実験をS100蛋白免疫染色と組み合わせて行い,矛盾しない結果が得られることを確認する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
ヘテロ接合体の遺伝子改変ラットを交配し,実験用個体の安定供給に必要な繁殖用のホモ接合体オス・メス3つがいを得るまでの過程で,ラットの妊娠・出産状況に合わせて使用期限の短い高価な遺伝子型判定用試薬・飼育用エサなどを購入していく必要があり,それらの実際の購入量が予想より下回った。 3匹目のホモ接合型オスラットの遺伝子型判定用試薬・飼育用エサなどの購入のため使用する。 遺伝子改変ラット実験で,組織標本免疫蛍光染色のため赤色または遠赤外蛍光標識二次抗体が必要である。 遺伝子改変ラットの実験で,分離組織標本実験のため赤色蛍光プローブが必要である。
|