カベオラと一次線毛は,信号系分子が集まる機能区域として細胞極性を統御する。ラット頬ひげの動き受容器槍型神経終末の単極形終末シュワン細胞は,丸い細胞体から一本の索状突起をのばし,その先が分かれて軸索終末のグリア鞘をなす。各グリア鞘にはATP受容体がカベオラとともに集積し,局所刺激に応じて独自のCa信号を生成する細胞内区域を構成する。生後4週令ラットの分離組織標本を用いた前年度までの研究で,槍型終末周辺には,グリア特異蛋白S100陽性の小さい星形の細胞の他,それらと単極形シュワン細胞との中間形が多数観察された。本年度は,これらの細胞の存在をより固定条件の良い標本で確認し,さらに,周囲構造物との解剖学的関係を詳細にする目的で,幼若なS100-GFP 遺伝子改変ラットを灌流固定し,頬ひげ毛包を含む皮膚組織の厚切り凍結切片を作成して神経線維マーカーPGP9.5蛋白の免疫染色を施し,共焦点顕微鏡の立体再構築を行った。 槍型終末周辺には,強いS100-GFP 蛍光を発する,星形シュワン様細胞,単極形終末シュワン細胞,両者の中間形細胞が観察された。星形シュワン様細胞は核中央の窪みを毛包基底膜に向け細い突起を放射し,中間形細胞は槍型終末に近い細胞体半球から長いグリア鞘をなす1本以上の突起の他3-4本の短い突起をのばしており,分離標本の観察結果によく一致した。星形シュワン様細胞の突起はPGP9.5蛋白陽性神経軸索との接触を示さず,多くは結合組織内に自由端で終わり,一部は槍型終末に軸索を供給する神経線維の髄鞘外表面に沿って扁平に広がった。中間形細胞の短い突起の多くは結合組織内に自由端で終わっていたが,ときに槍型終末をつくる有髄線維のランビエ絞輪に小さな葉状の終足を接着させていた。単極形シュワン細胞の形態成熟に神経線維や軸索との接触が重要な意義をもつことが示唆された。
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