研究課題/領域番号 |
24590248
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
星 治 東京医科歯科大学, 大学院保健衛生学研究科, 教授 (10303124)
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研究分担者 |
武井 延之 新潟大学, 脳研究所, 准教授 (70221372)
長 雄一郎 東京医科歯科大学, 大学院保健衛生学研究科, 助教 (90334432)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 成長円錐 / 原子間力顕微鏡 / 脳由来神経栄養因子 / 神経栄養因子 / 脊髄後根神経節細胞 |
研究概要 |
平成24年度は、神経成長因子の種類の相違が成長円錐の運動や形態に与える影響を明らかにすることを目的に、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy; AFM)によりラット脊髄後根神経節細胞を観察した。以下に行った実験の方法、結果と考察について記す。 【材料と方法】 ラット胎児より脊髄後根神経細胞を採取し、トリプシン、DNaseI処理後、poly-L-lysine コートのディッシュ上で、脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor: BDNF)または神経栄養因子(nerve growth factor: NGF)を含む培地で2日間培養した。その後、4%パラホルムアルデヒドで固定し、Alexa488 phalloidin でアクチンフィラメントを標識した。蛍光顕微鏡で観察後、アルコール系列で脱水後、臨界点乾燥を施しAFMにより観察した。 【結果と考察】 培地に添加した脳由来神経栄養因子(BDNF)もしくは神経栄養因子(NGF)に応じて、成長円錐の形態には相違がみられた。すなわち、BDNFを加えた培地で培養した神経細胞の方が、NGFのものより多くの糸状仮足が発達していた。これは、神経細胞にはNGF受容体を有する細胞と、BDNF受容体を有する細胞があり、これらの受容体の有無が成長円錐の形態にも影響を与えていることが考えられる。また、成長円錐におけるアクチンフィラメントの局在を蛍光標識し観察した後、同一標本をAFM観察することで、表面形状との関連を解析することが可能となった。蛍光像では、葉状仮足ではアクチンフィラメントが多く分布する部分と少ない部分があった。糸状仮足では葉状仮足より多くのアクチンフィラメントが局在していた。いずれの場合もアクチンフィラメントが多い部分は細胞膜が隆起し、高さが高い傾向にあった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで達成された成果を要約すると以下の3項目である。①脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor: BDNF)または神経栄養因子(nerve growth factor: NGF)を含む培地でラット脊髄後根神経節細胞を培養し、両者を比較したところ、成長円錐の形態に相違が認められた。すなわち、BDNFを加えた培地で培養した神経細胞の方が、NGFを加えたものより多くの糸状仮足が発達していた。刺激するガイダンス因子によって成長円錐の形態が異なることが明らかになった。②成長円錐の中心領域は辺縁領域より隆起していた。アクチンフィラメントは糸状仮足に多く存在し、その分布量は成長円錐の高い部分ほど多い傾向にあった。成長円錐の内部構造と表面構造との関係が原子間力顕微鏡によるイメージングによって明らかにすることができた。③原子間力顕微鏡は、神経細胞の成長円錐の表面構造と内部のアクチンの局在との関係を解析する上で有用であることが示された。 以上の成果を、研究目的の達成度の観点からみると、ほぼ順調に進捗していると考えられる。しかし、原子間力顕微鏡のイメージング技術の改良については、今後本研究課題の目的を最終的に達成する上でキーポイントとなってくるので、さらなる進展をはかる必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
原子間力顕微鏡によるイメージング方法の改良を多角的に検討する。特に、液中での観察条件について、探針により細胞を損傷せずに明瞭な表面構造のイメージングを可能にするような観察条件の検討を行う。また、成長円錐の内部構造については、チュブリンなどの細胞骨格成分の分布も蛍光標識により観察する。それにより、成長円錐の内部構造と表面構造との関係解析をおこなっていく。また、細胞については、脳由来神経栄養因子(BDNF)あるいは神経栄養因子(NGF)の受容体の有無を明らかにし、添加する因子と糸状突起の発達との関係を検証していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の多くは消耗品などの物品費に充てる予定である。具体的には、培養細胞試料、培養に関わるシャーレやピペットなどの器具および試薬、探針などの顕微鏡用品である。残りは、成果発表のための旅費、外国語論文の校閲費用、研究成果投稿料などを予定している。
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