研究課題
ミトコンドリアは、細胞内でのエネルギー産生のみならず、細胞死、がん化、老化など様々な生命現象に関与する細胞内小器官である。また自身が融合・分裂増殖を繰り返し、形態的にもダイナミックな変化を起こす。一方、女性ホルモンであるエストロゲンはその受容体(ER)を介して直接的、間接的にミトコンドリア生理活性を変化させるが、このステロイド系によるミトコンドリアの形態・機能の制御機構はいまだ不明である。この為ステロイド代謝の中心である肝臓での肝切除・再生系を用い、エストロゲンとERが、ミトコンドリア特異的転写因子とその関連タンパク発現動態、ミトコンドリアDNA修飾変化、ミトコンドリア融合・分裂増殖による形態変化にどのように関与しているかを明らかにすることを目的として平成25年度は以下の実験を行った。1.ラット肝臓に、蛍光標識されたミトコンドリアマーカーを指標とする遺伝子を遺伝子導入装置により導入実験を行った。肝細胞内のミトコンドリアに蛍光標識が認められた。2.ラット肝切除実験を行い、切除後6、12、24、36、48、72、148時間のサンプルを採取すると共に、再生過程評価のためにproliferating cell nuclear antigen (PCNA)を用いて免疫組織化学を行い、肝切除後24時間から36時間でPCNAの高発現を認めた。3.肝再生に関与する物質としてLimA並びにLimBの遺伝子発現動態についてPCRを用いて解析し、切除後24時間で発現を認めた。4.新規蛍光物質による蛍光in situ hybridization法による遺伝子解析法を検討した。5.肝組織を用いてエピジェネティック解析法であるHELMET法による検出法を確立した。以上、肝切除後の再生機構におけるミトコンドリア動態と肝再生誘導物質の発現動態について分子組織細胞化学的手技を用いて現在解析中である。
2: おおむね順調に進展している
肝組織での増殖や再生に関するマーカー検出、遺伝子導入装置の効率性、ERノックダウン解析、遺伝子レベルでの解析のための蛍光in situ hybridization法の開発等を行うとともに、新たに蛍光標識を用いた遺伝子、タンパク質多重標識組織解析法を開発中である。これらにより、標的遺伝子、タンパク質を同じ組織切片で同時に解析を行うことができるため、細胞レベルでのミトコンドリア動態と肝再生誘導物質の発現動態の関連性について解明できる体制が確立しつつある。現在、肝切除後の再生組織のサンプルにおいて、上記解析法を用いた実験を始めており、研究計画はおおむね順調に進展していると考えている。
昨年度までの上記実験系を鋭意進展させるとともに、本年度は、エストロゲン処理ラットでミトコンドリア関連物質自体をノックダウンさせることにより、ミトコンドリア機能・形態がエストロゲン・ERとどのような関連性を持つかを明確にさせる予定である。具体的には、エストロゲン処理ラットを用いて、肝切除直前にミトコンドリア生物活性で中心的な役割を持つ核内転写因子nuclear respiratory factor-1(NRF-1)遺伝子並びに核由来のmtDNA特異的転写因子であるmitochondrial transcription factor A (TFAM)、ミトコンドリア内膜構成タンパク質OXPHOSについて、それぞれ遺伝子導入装置を用いてノックダウンさせ、その後の肝再生過程でのミトコンドリア動態について分子組織細胞化学並びに電顕解析を行う予定である。
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