研究課題
ミトコンドリアは、細胞内でのエネルギー産生のみならず、細胞死、がん化、老化など様々な生命現象に関与する細胞内小器官である。また自身が融合・分裂増殖を繰り返し、形態的にもきわめてダイナミックな変化を起こしている。一方、女性ホルモンであるエストロゲンはその受容体(ER)を介して直接的、間接的にミトコンドリア生理活性を変化させるが、このステロイド系によるミトコンドリアの形態・機能の制御機構はいまだ不明である。この為ステロイド代謝の中心である肝臓での肝切除・再生系を用い、ERα並びにERβ発現動態、ミトコンドリア特異的転写因子とその関連タンパク発現動態、ミトコンドリア融合・分裂増殖による形態変化について解明を行った。雌雄ラット70%肝切除モデルを用い、細胞増殖活性の指標であるproliferating cell nuclear antigen (PCNA)発現並びにERα発現変化を検討したところ、両性ともに肝切除後36時間から48時間でPCNA高発現を認めた。一方でERα発現は肝切除後48時間から72時間で増加を認めたが、ERβの発現は肝切除後も全く認められなかった。以上より、肝切除後の細胞増殖機構にはERα系の関与が示唆された。今年度は更にヒト乳がん培養細胞(MCF7)のミトコンドリア形態解析を行ったところ、mitochondrial elongation factor 1 (MIEF1)がエストロゲンを介するミトコンドリアの分裂・融合に必須であることが判明した。また電子顕微鏡による形態解析では、エストロゲン投与によるミトコンドリアの核周囲での伸張が認められた。今後、エストロゲン投与ラットの肝切除モデルを用いてMIEF1の遺伝子制御をエレクトロポレーション法を用いて行い、ミトコンドリア機能・形態へのER系の関与について詳細に検討する予定である。
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