研究課題/領域番号 |
24590274
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
古家 喜四夫 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (40132740)
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キーワード | ATP放出 / ATP受容体 / Luciferin-Luciferase / 機械受容 / 発光イメージング / 細胞内カルシウム / メカノバイオロジー / 細胞間シグナリング |
研究概要 |
Luciferin-Luciferase生物発光を用いたATPリアルタイムイメージング装置を開発し保有しているが、本研究ではそれを明るさが桁違いに異なる蛍光と同時に、あるいは高速の切り替えで時間差を最小にした測定系に改良するとともに、ATP放出の機序、役割を各種の細胞で明らかにすることを目的とする。昨年度は赤色のCa2+指示薬が使えるように、633nmの励起光と633nmのノッチフィルターを精度よく組み合わせた蛍光システムを構築しATP発光とCa2+赤色蛍光が光路を切り替えることなく観察できるように改良した。 得られた主な研究実績は、 1.国際雑誌Methodの編集者からの依頼によりATPルミネッセンスイメージング法のReviewを最新の顕微鏡イメージング法特集の中に執筆した(研究発表・雑誌論文#2)。 2.小腸絨毛上皮下に密に存在し他の細胞ともネットワークを形成する上皮下線維芽細胞は機械刺激によってATPを放出し、そのATPシグナリングは小腸絨毛の動きやしなやかさなどの機械的性質を制御していることをすでに明らかにしている。本研究ではさらにサブスタンスPやそれを持つ神経系と相互作用していることを形態的にも機能的にも明らかにした。この相互作用がたくさんの絨毛の調和した運動に関与していることを示唆した。この成果は国際生理学会(バーミンガム・英国)において発表し(研究発表・学会発表#1)、またInternational Review of Cellular and Molecular BiologyにInvited Reviewとして掲載された(研究発表・雑誌論文#1)。 3.ヒト表皮培養細胞を用いて、伸展機械刺激によるATP放出が周りの細胞でのATP受容体を活性化しCa2+波が伝播、それが創傷治癒過程を促進することを明らかにした。そのATP放出は創傷部位近傍の細胞のみからヘミチャネルを介して起こることを明らかにした。この成果は生理学研究所研究会他各種学会で発表し、現在J Cell Science に投稿、Revise中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
蛍光・発光の高速切り替えによる「同時」測定系への改良はほぼ完成しているが、使用ソフトのバグという問題がありまだ完全ではない。しかしそれが必要なCa2+測光以外の各種蛍光観察とATP発光が同じサンプルで生理実験中に容易に行えるようになり、ATP放出サイトと各種蛍光染色部位との対比ができるようになった。それを用いて、上記4のヒト表皮細胞の創傷治癒過程における伸展機械刺激によるATP放出時にヘミチャネル透過性の蛍光色素CalceinがATP放出した細胞に取り込まれることを見いだし、この細胞でのATP放出にヘミチャネルが関与することを明らかにできた。その他、上記研究実績以外にも骨格筋や気道平滑筋からのATP放出に関する共同研究を行うなど多くの成果が上がっており、全体としてはおおむね順調に進展しているということができる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の目標である細胞内Ca2+と放出ATPの「同時」イメージングを出来る限り実現するよう研究を進めていく。それとともにATP測定の前後で蛍光観察が容易に出来ることで種々の蛍光色素や蛍光標識抗体を使ったATP放出経路の探索が可能となる。昨年来それらATPイメージングでしかできない実験を行って来ているがさらにその研究を進めていく。具体的には、同じ細胞でも乳腺ではホルモン処理や培養時の基質の性質によって、小腸上皮下線維細胞では細胞内cAMP依存した形態変化によって、表皮細胞では創傷部位のような状態の変化によってATP放出の能力は大きく変わる。これは癌における上皮-間葉系転換時にも起こっていると思われる。その要因を明らかにしていく。また、放出のメカニズムの探求と共に生理的役割の確認のためにも組織レベルでのATP放出の測定を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
装置改良が24年度から25年度に遅れたためそれを用いる実験の実施が遅れたことによる。 この実験はすぐにでも開始できることやその他の実験は進展していることから、使用計画としては当初の通りほとんど変更なく進めていくことができる。25年度未使用額は装置改良で可能となった赤外蛍光を用いた蛍光・発光「同時」測定の実験の消耗品として使用する。
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