我々の開発したルシフェリン・ルシフェレース生物発光を用いたATPリアルタイムイメージング装置を改良し、これまでに蛍光光源として瞬時のON-OFFや波長切り替え可能なLED光源を導入、さらに赤色のCa2+指示薬を使用可能にするため、633nmの励起光と633nmのノッチフィルターを精度よく組み合わせた蛍光システムを組み込み、明るさが桁違いに異なる発光と蛍光の同時、あるいは時間差を高速の切り替えにより少なくした測定系を構築した。また生体組織、器官からのATP放出を観察するためにさらに低倍のマクロ顕微鏡を用いたATPイメージングシステムを構築した(最終年度)。それらを用いて各種細胞、組織でのATP放出を観察し以下のような結果を得た。 1. ヒト表皮細胞において伸展刺激が傷の治癒を促進することを示し、それにヘミチャネルを介したATP放出と、ATP受容体活性化に伴うTRPC6を介したCa2+の持続的な流入が関与していることを明らかにした。 2. 赤血球は血流中で機械刺激によってATPを放出し血管の弛緩等の生理作用をしているが、そのATP放出の多くの部分が血球の融解に依っていることを明らかにした。 3. 肺及び気道の上皮細胞や平滑筋細胞、線維芽細胞において伸展機械刺激によってATPが放出されCa2+応答が誘起されることを明らかにしその機序、生理的役割について考察した。 4. ラット肺を摘出しその組織からのATPイメージングを行い、肺の気道を介した膨張を機械刺激とする肺組織からATP放出の検出にはじめて成功した。 5. 各種正常および乳がん細胞の機械刺激によるATP放出が3次元コラーゲンゲル培養下でも起こることを明らかにした。これは正常およびがん組織のモデル実験系構築の足掛かりとなる。
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