研究課題/領域番号 |
24590275
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
沼田 朋大 京都大学, 地球環境学堂, 助教 (20455223)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | TRP / 細胞容積調節 / パッチクランプ / TRPM2 / CD38 / EFHC1 / てんかん / 国際情報交換 |
研究概要 |
これまで、TRPM2の活性化機構や細胞死に関わる報告は、活性酸素種による研究が主に行われていたが、高浸透圧刺激など生理的な環境における活性化機構に関わる報告やTRPM2活性が相互作用タンパク質によって制御を受けるという報告は全くなかった。本課題では、細胞に高浸透圧刺激を与えた際に活性化するTRPM2の活性化シグナルおよびその分子機構の解明と細胞死への関与の解析を行った。これらの課題を遂行することで、TRPM2の新規活性化機構と細胞死の原因解明を目指した。 1年目は、上皮細胞に発現するTRPM2のクローニング、局在確認を行った。今まで上皮細胞であるHeLa細胞でTRPM2様の電流を確認していた。これらの電気生理学的解析から得たTRPM2様の電流特性、阻害剤に対する感受性とsiRNAを用いた実験から分子実体はTRPM2であると考えた。そこで、HeLa細胞からTRPM2のクローニングを行った。その結果、野生型TRPM2のクローンとC末端の一部が欠損したスプライシングバリアントの2種類のクローンの存在を確認した。さらにこれらの分子の局在確認を通常浸透圧、高浸透圧刺激の2つの条件において、免疫染色法で行った。 一方、TRPM2の活性制御タンパク質として、EFHC1とTRPM2が相互作用することを確認した。そこで、TRPM2とEFHC1の相互作用部位の同定をTRPM2のN末端、C末端を用いて免疫沈降法によって確認を行った。その結果、N末端、C末端のどちらにも相互作用をすることが分かった。次にEFHC1は、てんかんに関わる分子として良く知られているため、脳における発現部位をin situハイブリダイゼーションで行った。その結果、海馬にTRPM2の発現が多く見られ、EFHC1の発現部位と重なった。 今後、機能解析および細胞死への関与について課題を遂行する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上皮細胞に内在的に発現するTRPM2のクローニング、局在確認 今まで上皮細胞であるHeLa細胞でTRPM2様の電流を確認している。また、電気生理学的解析から得たTRPM2様の電流特性、阻害剤に対する感受性とsiRNAを用いた実験から高浸透圧で活性化される電流といったこれらの結果から、分子実体は、TRPM2である可能性が高いと考えた。そこで、HeLa細胞から内在的に発現するTRPM2のクローニングを行った。その結果、野生型TRPM2の分子実体とともに、C末端の一部が欠損したスプライシングバリアントのTRPM2が新たに見つかった。局在確認については、細胞膜での発現を確認するために、免疫染色法およびウェスタンブロッティングを行った。これらの結果から、高浸透圧で活性化する分子実体はTRPM2であり、細胞膜に局在し、機能的に働いていることが明らかとなった。 TRPM2およびEFHC1の発現部位と相互作用の確認 電位依存性Ca2+チャネルの活性調節と細胞死に深くかかわる分子であるEFHC1が同じ細胞死に関わるイオンチャネルであるTRPM2と相互作用をすることを考え、免疫沈降法を行った。その結果、両者は、相互作用をしていることが確認されたため、相互作用部位の同定をTRPM2のN末端、C末端に分割して相互作用部位の同定を行なった。その結果、C末端、N末端の両方と相互作用をしていることが分かった。また、EFHC1は脳に多く発現するてんかんに関わる分子としてよく知られているために脳における発現部位をin situハイブリダイゼーションで行なった。その結果、脳の海馬においてTRPM2およびEFHC1が共局在をしていた。 これらの結果より、本年度の研究の計画はおおむね順調に進展しており、研究の目的は達成できた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、以下の2つの課題に取り組む。 上皮細胞に発現するTRPM2の活性化機構の解明 TRPM2の活性化には、NAD+、ADPr、cADPr、酸化ストレスやカルシウムイオン(Ca2+)が活性に重要だということが報告されている。そこで、高浸透圧刺激に応答するいくつかの重要な活性化シグナルであるROSやCa2+およびADPrの産生を確認する。これらのシグナルの産生が確認された場合、それぞれのシグナルに対する阻害剤やスカベンジャーを用いて機能評価を行う。 TRPM2およびEFHC1を共発現させた際の機能変化の解析 EFHC1は若年性てんかんの原因遺伝子であり、電位依存性R型カルシウムチャネルC末端に結合することで電流増強を惹起する。そこで、今回、EFHC1変異体と一塩基多型の変異(R159W、R182H、I619)を含め8種の変異体のTRPM2の機能に対する機能評価をCa2+測光および電気生理学測定によって評価する。この際、EFHC1はEF-hand motifを有していることからTRPM2が内在的に持つCa2+依存性[Sumoza-Toledo, A. & Penner, R. 2011 J Physiol.]を変化させている可能性がある。そこで、TRPM2の活性剤として知られるADPrの他に細胞内外のCa2+濃度[Du, J. et al. 2009 Proc Natl Acad Sci U S A.]やpH[Du, J. et al. 2009 JGP]にも注意して検討を行う。さらにEFHC1とTRPM2を共発現した際に機能の変化が見られたが発現量の変化はないか確認する意味でウェスタンブロットによってタンパク質の発現量の確認を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、昨年度における上皮細胞からTRPM2の分子同定や局在など生化学的研究の再現性の確認と同時に計画である機能解析を中心に行う。 この際にADPrの産生量の測定においては、初期の設備や条件検討が必要であることが予想されたため、昨年度に繰り越した金額を充てることを考えている。 また、機能解析においては、TRPM2の活性を評価する際の条件検討にかかる試薬等の金額および活性化剤として使用期限が短く且つ高額なADPrやcADPrを購入するための費用を計上しているために多めに設定をしている。 ・新しい技術の取得などについては文献を参考にするのみでは克服できない問題が予想されるが、この場合には、大学内や他大学、学会へ行き、専門家と討議することを検討する。 ・細胞死に関する研究は、過去に申請者と共に業績を残してきた細胞容積調節機構と細胞死の専門家である生理学研究所 岡田 泰伸 所長、ドイツ マックスプランク分子生理学研究所Wehner Frank教授と連絡を取り討議を行い、必要であれば実験設備の充実している研究機関に行き、実験データを取得する。
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