研究課題/領域番号 |
24590285
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
松田 純子 川崎医科大学, 医学部, 教授 (60363149)
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キーワード | 上皮細胞 / 小腸 / 膜脂質 / スフィンゴ糖脂質 / セラミド |
研究概要 |
小腸上皮細胞にはスフィンゴイド塩基のC4位と脂肪酸のC2位に一つずつ水酸基が多いフィトセラミド構造(t18:0/hFA)を持つスフィンゴ糖脂質が豊富に存在する。しかしその生物機能はほとんどわかっていない。我々は、先行研究において、現在同定されている唯一の脂肪酸C2水酸化酵素Fatty acid 2-hydroxylase(FA2H)は神経系の髄鞘には強く発現しているが小腸には全く発現が認められないことを明らかにした。本研究の目的は活発な消化吸収機能を担う小腸上皮細胞に特徴的に発現するフィトセラミド構造(t18:0/hFA)の生物機能の解明である。平成25年度は小腸上皮細胞に発現する新規の脂肪酸C2水酸化酵素を同定するためにタンパク質配列のデーターベースを用いたモチーフ・ドメイン検索により、脂肪酸水酸化酵素に共通のモチーフ配列を持ち小腸での発現が高い候補遺伝子のクローニングを行った。これと並行して我々の研究室で作製したスフィンゴシンのC4位の水酸基(t18:0)を欠損する、dihydroceramide:sphinganine C4-hydroxylase(DES2) ノックアウトマウス(Des2-KO) の表現型解析をすすめた。腸内細菌叢の影響を最小限とするために、SPF環境でガンマ線滅菌済みの餌で飼育したところ、Des2-KOマウスは約半数が生後2週間前後で死亡することが確認された。Des2-KOの早期死亡群は生後8日ころより体重増加不良を呈した。組織病理学的解析の結果、小腸上皮細胞に形態異常を認めたことから、小腸における消化吸収機能の障害が推測された。これらの結果から、物質の消化吸収機能を担う上皮細胞におけるフィトセラミド構造の重要性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スフィンゴシンのC4位の水酸基(t18:0)を欠損する、DES2ノックアウトマウス(Des2-KO) の表現型解析が飼育環境を調整することで進展した。Des2-KOマウスはフィトセラミド構造(t18:0/hFA)に富む組織である小腸と腎臓に明瞭な変化をきたすことが確認され、物質の消化吸収機能を担う小腸上皮細胞および腎尿細管上皮細胞におけるフィトセラミド構造の重要性が示された。 GSLの生物機能解析に関する研究は糖転移酵素のノックアウトマウスを用いたものは多いが、本研究のようにセラミド骨格に着目したものは少ない。Des2-KOマウスの詳細な表現型解析を行うことによって、フィトセラミド構造が担う生物機能を個体レベルで検証することができる可能性が高い。 小腸上皮細胞に発現する新規の脂肪酸C2水酸化酵素の候補遺伝子のクローニングが進み、脂肪酸水酸化酵素活性測定でスクリーニングを行っている。
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今後の研究の推進方策 |
Des2-KOマウスの表現型解析結果から、GSLのフィトセラミド構造には、小腸上皮細胞の形態や、頂端膜に発現する栄養素輸送体タンパク質の局在および機能を維持する役割があると考えられる。今後はさらに解析を推進し、膜タンパク質の膜貫通部分とフィトセラミド構造との相互作用など、その分子メカニズムの解明を行う。 新規脂肪酸水酸化酵素遺伝子の同定に成功した後にはセラミド骨格の2か所の水酸基を共に欠損したダブルノックアウトマウスを作製し表現型解析を行う。ダブルノックアウトマウスではフィトセラミド構造(t18:0/hFA)を完全に欠損するため、Des2-KOに不均一に見いだされた表現型が均一に観察され、小腸上皮細胞膜における膜脂質の機能を明らかにできることが予想される。
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次年度の研究費の使用計画 |
遺伝子改変動物の学内導入手続き等に時間を要したため。 最終年度である本年度は1)Des2ノックアウトマウスの表現型解析と、2)小腸上皮細胞に発現する新規の脂肪酸C2水酸化酵素の同定と特性解析に取り組み、1)に60%、2)に40%の物品費の使用を予定している。1)に関しては、年度内での論文発表を目指す。
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