研究課題/領域番号 |
24590285
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
松田 純子 川崎医科大学, 医学部, 教授 (60363149)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 上皮細胞 / 小腸 / 膜脂質 / スフィンゴ糖脂質 / セラミド |
研究実績の概要 |
スフィンゴ糖脂質(GSL)は生体膜の構成脂質で、親水性の糖鎖部分と疎水性のセラミド骨格からなる。種々の糖転移酵素のノックアウトマウスの解析から糖鎖構造の重要性は明らかになってきた。一方で、セラミド骨格の構造多様性が担う生物機能についてはいまだ不明な点が多い。セラミド骨格はスフィンゴイド塩基と脂肪酸から構成され、それぞれに構造多様性がある。哺乳動物の小腸には、他の組織にはほとんど存在しないスフィンゴイド塩基と脂肪酸に一つずつ水酸基が多いフィトセラミド構造(t18:0/hFA)を持つGSLが豊富に存在する。そこで我々は、その合成にかかわる2つの酵素、Dihydroceramide: sphinganine C4-hydroxylase(DES2)とFatty acid C2-hydroxylase(FA2H)のそれぞれのノックアウトマウスの表現型解析を行った。DES2ノックアウトマウス(Des2-KO)の小腸ではフィトセラミド構造を持つGSLは検出されず、ジヒドロセラミド構造に置き換わっていた。Des2-KOマウスの約25%が出生早期から体重増加不良を呈して生後2週間前後で死亡し、小腸上皮細胞では膜脂質や膜タンパク質の局在異常など明らかな組織病理変化を認めた。これらの結果から、フィトセラミド構造は小腸上皮細胞の形態維持や、栄養素輸送体タンパク質の機能発現において重要であることが示された。さらに、従来フィトセラミド構造の存在が知られていなかった膀胱移行上皮により明瞭な組織病理変化を見出し、フィトセラミド構造との因果関係を解析中である。一方、Fa2hノックアウトマウスの消化管では、脂質分析の結果、食道と胃では水酸化脂肪酸(hFA)が欠損していたが、小腸および大腸では欠損が認められず、小腸上皮細胞の形態変化も明らかではなかった。以上の結果から、未知の脂肪酸水酸化酵素の存在を疑い新規酵素遺伝子の探索を継続しているが、いまだ同定にはいたっていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Des2-KO マウスの表現型は未知のmodifier遺伝子による修飾が推測され、致死型と重症型の2つに分かれたため解析に困難を要した。しかし、注意深い交配実験の結果、致死型の表現型を呈するDes2-KO マウス系統の樹立のめどが立ち、今後は研究を加速させることができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
膀胱移行上皮小腸上皮細胞と同様に極性細胞であり、活発な物質輸送を行う頂端膜と側底膜を持つという点で共通点が多い。したがって、Des2-KO マウスの膀胱移行上皮の表現解析を行うことは当初の小腸上皮細胞におけるセラミド構造の生物機能を明らかにするという研究目的に合致する。そこで、最終年度である平成27年度において、まず、膀胱組織と新生仔期脳組織にフィトセラミド構造を含むGSLが豊富に存在し、Des2-KOマウスにおいてそれらが欠損していることをLC-MSを用いた定量的構造解析により明らかにする。次に膀胱移行上皮における病態を、膜脂質および膜タンパク質の局在や機能、細胞内小胞輸送機構などに着目して解析する。得られた成果により、上皮細胞におけるフィトセラミドの新規機能を明らかにすることができ、未知の疾患の発見、スフィンゴ脂質代謝をターゲットとした疾病の予防や治療法の開発への展開が期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
Des2-KO マウスの表現型は未知のmodifier遺伝子による修飾が推測され、致死型と重症型の2つに分かれたため解析に困難を要した。しかし、注意深い交配実験の結果、致死型の表現型を呈するDes2-KO マウス系統の樹立のめどが立ち、今後は研究を加速させることができると考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
LC-MSを用いた定量的構造解析のための試薬購入費用とする。
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