研究課題/領域番号 |
24590289
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
梶 博史 近畿大学, 医学部, 教授 (90346255)
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研究分担者 |
岡田 清孝 近畿大学, 医学部, 講師 (20185432)
河尾 直之 近畿大学, 医学部, 助教 (70388510)
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キーワード | 骨再生 / 骨芽細胞 / 骨修復 / 線溶系 / 骨代謝 / 糖尿病 |
研究概要 |
骨・軟骨再生に組織線溶系とそれにより誘導されるタンパク分解酵素系や増殖因子が骨修復過程において重要な役割をはたすことがこれまで示唆されてきた。私共はプラスミノゲン欠損マウスを用いて、組織線溶系の最も重要な因子であるプラスミノゲンが骨修復過程に必須であることを示した。そこで引き続いて、線溶系の阻害因子であるPlasminogen activator inhibitor-1 (PAI-1)の骨代謝・骨修復における役割について、PAI-1欠損マウスを用いて検討した。In vivo, in vitroの検討により、PAI-1欠損により、骨代謝・骨修復はあまり影響を受けなかった。そこで、ストレプトゾトシン (STZ) 投与糖尿病モデルの雌性マウスを用いて、糖尿病病態におけるPAI-1の役割を検討した。野生型でSTZ投与により血中PAI-1濃度が増加したが、PAI-1欠損マウスと野生型マウスでは、血糖増加に差はなかった。野生型マウスでは、糖尿病群で骨欠損部の骨形成および骨芽細胞数は減少し、骨修復が遅延した。PAI-1欠損マウスでは、この糖尿病状態による骨形成、骨芽細胞数の減少が阻害されていた。また、PAI-1欠損マウスでは、糖尿病状態による骨分化マーカー減少が阻害された。一方、糖尿病状態による軟骨形成、II型、X型コラーゲン、アグリカンmRNA減少および脂肪分化マーカーの増加については、PAI-1欠損の影響はなかった。今回の結果より、PAI-1は糖尿病による骨修復遅延に寄与することが示唆された。さらに、糖尿病病態の骨修復過程における骨芽細胞数の減少および骨芽細胞分化抑制にPAI-1が関与する可能性が考えられた。同様に、PAI-1が糖尿病マウスにおける骨代謝異常に関与することも示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、組織修復に重要な役割をはたす線溶系関連因子の骨・軟骨再生における役割を明らかにすることが目標である。すでに線溶系関連因子のうち最終段階のプラスミンの前駆体であるプラスミノゲンの欠損マウスを用いて、プラスミノゲン欠損マウスでは、骨修復が著明に遅延することを明らかにしている。本年度の研究の進展状況では、プラスミノゲン阻害因子のPAI-1が糖尿病病態において、骨代謝および骨修復に関与することを明らかにした。これらのデータは、組織線溶系を調節する体液性因子が、骨代謝および骨・軟骨再生の調節に重要であることを示す新しい知見である。これらの実験結果はすでに論文として、DiabetesおよびPLoS ONEに発表した。線溶系関連因子の骨・軟骨再生における役割のさらなる分子機序の詳細の解明は、今後の検討課題であり、現在、プラスミノーゲンアクチベーター欠損マウスを用いた研究が進展中である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、プラミノーゲンおよびPAI-1欠損マウスを用いて、骨・軟骨再生における組織線溶系の役割の詳細を検討してきた。今年度の研究では、現在も進行中であるプラスミノーゲンを活性化する主因子である組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)と組織蛋白分解系で役割をはたすことが示唆されるウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(uPA)の欠損マウスを用いて、tPAやuPAの骨修復過程における役割を明らかにする。さらに、in vitroの骨芽細胞、間葉系細胞、破骨細胞、骨髄細胞培養系を用いて、骨、軟骨再生機構におけるtPAやuPAの役割を分子生物学的に検討する。また、フローサイトメーターによる骨髄細胞分析により、骨修復における線溶系の関わりで、骨髄細胞がどんな役割をはたすか検討する。
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