研究課題/領域番号 |
24590291
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
岡田 俊昭 生理学研究所, 細胞器官研究系, 特任准教授 (00373283)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 生理学 / イオンチャネル |
研究概要 |
ClCチャネル/トランスポータファミリーに属するClC-3は約15年前にクローニングされ、以降多くの研究・解析が行われてきたが、チャネルとしての機能については不明な点が多い。ClC-3にはそれぞれ異なるN末、C末アミノ酸配列を持つa-fの6つのアイソフォームが存在すると考えられているが、アイソフォーム間の機能的な差異や、その差異が生じるメカニズムについても多くが不明のままであり、本研究ではa-dの4つのアイソフォームにおいてN末、C末の違いがClC-3の機能をどのように制御するのか明らかにし、ClC-3の機能に関する理解を深めることを目的としている。特にアイソフォームd(ClC-3d)はこれまでに調べられていない新規のC末バリアントであり、これを含めた解析をおこなうことで研究に独自性を持たせている。 これまでClC-3のCl-チャネルとしての機能については複数の研究グループから互いに矛盾するようなデータが報告されている。研究代表者が所属する研究室においておこなった予備実験では強制発現系においてClC-3に由来する電流は記録できなかった。しかし本課題採択後に、同じ研究室に所属していた秋田天平氏(現・浜松医大・准教授)の協力の下、改めてパッチクランプにより電気生理学的な解析を試みたところ、ClC-3dに由来する電流を記録することが出来た。ClC-3d電流は+60mV以上で活性化する急峻な外向整流性を示し、一般的なCl-チャネル阻害剤には殆ど反応しないことがわかった。さらに電流の性質について過去の様々な報告を検証した事に加えて、Cd2+がClC-3電流を阻害することを新規に発見した。今回の成果は基礎的ではあるが、未だ混乱しているClC-3のチャネル機能を議論する上で今後重要になると考えている。成果は24年度に日本生理学会大会に於いてポスターとして発表し、論文を現在準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題はClC-3のアイソフォーム間の機能的な差異や、その差異が生じるメカニズムについて調べることを目的としているが24年度はClC-3dの電気生理学的な解析が中心となった。ClC-3dは、過去によく解析に用いられ細胞容積感受性Cl-チャネル(VSOR)や酸感受性Cl-チャネル(ASOR)の分子実体として報告されたこともあるClC-3aのC末バリアントである。細胞に強制発現させた場合、ClC-3aは細胞内に多数のリソソームを形成するのに対し、ClC-3dではリソソーム形成は見られない。このことは両アイソフォーム間に機能的差異が存在することを示唆しており、解析はClC-3aと共に行った。結果としてClC-3d, -aに由来する電流の性質に顕著な違いは観察されず、チャネルとしての性質は殆ど変わらないことが示された。ClC-3d電流の記録はこれまでに例がなくこれだけでも進展だといえるが、リソソーム形成能に顕著な差異が見られるにも関わらずClC-3d, -a間においてチャネル機能に差が無いという結果を得たことは、ClC-3のC末端の機能を考える上で興味深い。予備実験の結果から、電気生理的な解析は当初の計画では半ば諦めていたので、2つのアイソフォームの電気的な性質の解析・比較及び過去の論文の検証が出来たことは望外の成果だった。 一方で予定していたデリーション、キメラクローンを用いた解析についてはサブクローニングに困難があり思ったように進まなかった。発現ベクターに組み込んだClC-3遺伝子は大腸菌と相性が悪く、多くの場合大腸菌のコロニーが殆ど得られない、得られたクローンも異常なものであったが、この問題をうまく解決できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの達成度」の項で少し触れたがClC-3、特にClC-3aは以前、細胞容積感受性Cl-チャネル(VSOR)や酸感受性Cl-チャネル(ASOR)の分子実体だとして報告された(ただしこれらには異論も多い)アイソフォームであり、そのことが本課題研究を始めるきっかけの一つとなった。しかし、24年度に行った電気生理学的解析ではClC-3電流の大きさや薬理学的な性質はそれらの電流とは全く異なっており、VSOR説、ASOR説を主張する研究グループの論文データも全く再現されなかった。当初26年度に予定していたClC-3とこれらのチャネルの関係性について調べる実験は24年度に繰り上げて行った格好になったが、既に結論は得られたと考え今後は行わない。 従って25、26年度は24、25年度に予定していた計画を繰り下げて行うことになる。特に25年度は24年度にうまく進まなかった、配列の一部を削るデリーションクローンやキメラクローンを作製し、それらを培養細胞に強制発現させることで差異が生じる原因となるアミノ酸配列を特定する実験が急務となる。解析は4つのアイソフォーム中唯一強いリソソーム形成能を持つClC-3aと他のアイソフォームを比較しながら行う。N末端解析にはClC-3aと同じC末端アミノ酸配列を持つが異なるN末を持つClC-3b, cを用い、C末端解析はClC-3aと同じN末端アミノ酸配列を持つが異なるC末を持つClC-3dを用いる。また24年度の反省点を踏まえて、各クローンの作製については大腸菌の系統や発現ベクター、その他の試薬に関しても見直しをすることでトラブルシューティングを図る。26年度はアミノ酸残基の化学修飾に関する解析、ClC-3結合タンパク質の探索を行いClC-3の機能に関するさらに理解を深める。また成果の取りまとめや発表にも務める。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度は研究費の殆どを消耗品の購入に充てた。25年度以降も基本的には消耗品類の購入に、特に24年度に苦戦した分子生物学的な実験のための試薬等に研究費の多くを充てる。また研究打合せのための国内旅費や現在準備中の論文の出版費用等も既に研究計画書におい計上しているが、過不足については変更可能な金額の範囲内で適宜対応する。単独で50万円を越える高額な機器類の購入は予定しない。 25年度の人件費に関しては当初の計画からの変更を予定する。25年度は代表者が所属する研究室の環境が様変わりし、運営費による人員の雇用が難しくなった。しかしながら主として細胞培養の管理に人的補助が必要であるため、25年度中に半年間(9月以降の予定)、技術補助員を雇用し、そのための人件費を60万円程見積もる。ただし、設備備品費、旅費、人件費・謝金が研究経費の90%を超える予定は無い。26年度には技術補助員の雇用は予定しない。
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