研究課題/領域番号 |
24590291
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
岡田 俊昭 生理学研究所, 細胞器官研究系, 特任准教授 (00373283)
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キーワード | 生理学 / イオンチャネル |
研究概要 |
ClCチャネル/トランスポータファミリーに属するClC-3は約15年前にクローニングされ、以降多くの研究・解析が行われてきたが、チャネルとしての機能については不明な点が多い。ClC-3にはそれぞれ異なるN末、C末アミノ酸配列を持つa-fの6つのアイソフォームが存在すると考えられているが、アイソフォーム間の機能的な差異や、その差異が生じるメカニズムについても多くが不明のままである。本研究はa-dの4つのアイソフォームにおいてN末、C末の違いがClC-3の機能をどのように制御するのか明らかにすることを目的としている。特にアイソフォームd(ClC-3d)はこれまでに調べられていない新規のC末バリアントであり、これを含めた解析を行うことで研究に独自性を持たせている。 本研究では、まず、これまでに実験報告の多いClC-3aと新規バリアントであるClC-3dを比較しながら実験を進めた。それぞれの細胞内局在を調べ、ClC-3aと-3dでは顕著な差があることを示した。またパッチクランプにより電気生理学的な解析を試み、ClC-3dに由来する電流を記録し、Cd2+がClC-3電流をpartialに阻害することを新規に発見した。電流の性質についてはClC-3dと-3aの間で顕著な差異は認められなかった。従ってClC-3dと-3a に見られるC末アミノ酸配列の差異は、それぞれのタンパクの細胞内局在の制御に関わるものと考えられる。今回の成果は基礎的ではあるが、ClC-3のチャネル機能を議論する上で今後重要になると考えている。成果は24年度に日本生理学会大会に於いてポスターとして発表し、25年度にはCell Physiol Biochem誌に論文として受理された(Pub Med ID: 24603049)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題はClC-3のアイソフォーム間の機能的な差異や、その差異が生じるメカニズムについて調べることを目的としている。25年度は我々が新規にクローニングしたアイソフォーム、ClC-3dに関する論文を準備・投稿した。しかし、なかなか思うように受理されず、論文修正用のデータ採取が研究の中心とならざるを得なかった。最終的に論文(A Newly Cloned ClC-3 Isoform, ClC-3d, as well as ClC-3a Mediates Cd2+-Sensitive Outwardly Rectifying Anion Currents. Okada et. al.)は受理され、25年度中に電子版が掲載された。この論文ではC末アミノ酸配列の異なる2つのアイソフォームについてその機能的な差異を調べ、そこに一定の結論を得たということで本研究課題の目的の一部について達成できたと考えている。 また、ClC-3、特にClC-3aは以前、細胞容積感受性Cl-チャネル(VSOR)や酸感受性Cl-チャネル(ASOR)の分子実体だとして報告されたアイソフォームであり、これらの説の検証も本課題の目的のひとつであったが、24年度に行った電気生理学的解析ではClC-3電流の大きさや薬理学的な性質はそれらの電流とは全く異なっており、VSOR説、ASOR説を主張する研究グループの論文データも全く再現されなかった。これらのデータの一部は上記論文にて示し、既報の検証という点については完全に達成されたと考える。 予定していたClC-3のミュータントクローンを用いた解析については、幾つかのクローンを作製し細胞にトランスフェクションしてタンパクを発現させるに至ったものの、機能的に重要な配列の特定には至っておらず、この点については計画より遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
25年度に予定していたClC-3のデリーションクローン及びキメラクローンを用いた解析については前年に続きサブクローニングに困難があったものの、幾つかのクローンを作製し細胞にトランスフェクションしてミュータントClC-3タンパクを実際に発現させるに至った。これまでの実験結果から、ClC-3の各アイソフォームのN末、 C末アミノ酸配列の差異はそれぞれのタンパクの細胞内局在に反映されると考えられるため、作製したクローンについても主に細胞内におけるタンパクの局在を観察している。ただし、これまでに当初目標としたクローンを全ては作成できておらず、また細胞内局在の制御に関わる重要な配列の特定にもまだ至っていない。従って26年度は引き続きミュータントクローンを作製し、機能的に重要なアミノ酸配列を特定する実験を続行する。それらの結果に応じて、さらに機能的に重要なアミノ酸残基の化学修飾に関する解析やClC-3結合タンパク質の探索を行い、ClC-3の機能に関するさらに理解を深める。また現在、25年度に発表した論文を読んだ海外の研究者からコラボレーションの依頼を受けている。まだ具体的な話にはなっていないが、その内容次第では共同研究に発展するかもしれない。 26年度は研究計画の最終年度となるため、成果の取りまとめや発表を行うべきではあるが、実験が計画よりやや遅れているので、今年度中は出来るだけ多くのデータを採取することを第一に考える。最低限、機能的に重要なアミノ酸配列をN末、C末において特定することは成し遂げなければならない。成果の取りまとめや発表については最低限のデータが得られた後に行うことになるだろう。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度は論文の発表を計画し、実際に専門誌に投稿を行った。しかし、当初思うようには受理されず、論文の内容・論旨の修正やデータの再確認に力を注がなければならなかった。また、当該年度中は新しい実験を進めるというよりは、論文発表のためにこれまで行ってきた実験を繰り返すことが必要となってしまった。その結果、特に物品費において、試薬や消耗品の新たな購入が当初の予定より小額になったことが、当該助成金が生じた理由としてあげられる 26年度以降も基本的には消耗品類の購入に、特に分子生物学的な実験のための試薬や細胞培養のための消耗品等に研究費の多くを充てる。また研究打合せのための国内旅費も計上する。単独で50万円を越える高額な機器類の購入は予定しない。26年度の人件費に関しては、現在は予定していない。ただし26年度は研究代表者が所属する研究室の環境が様変わりし運営費による人員の雇用が難しくなったため、場合によっては数ヶ月程度、技術補助員を雇用するよう計画を変更することもあり得る。過不足については変更可能な金額の範囲内で適宜対応する。ただし、設備備品費、旅費、人件費・謝金のいずれかが研究経費の90%を超える予定は無い。
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