研究課題
心筋細胞のサバイバル/アポトーシス経路を理解することが心不全の予防に重要であるが、その全容は未だ明らかでない。申請者らは、心臓に発現しているが機能が不明であったCa2+センサーNCS-1の遺伝子欠損(KO)マウスの解析から、NCS-1がストレス下の心筋細胞のサバイバルを促進させる働きがある可能性を見出した。本研究では、1)NCS-1の心筋サバイバル因子としての機能を様々な観点から確認すること、2)NCS-1によるサバイバル作用の分子機構を明らかにすることを目的としている。昨年度までの研究で、KOマウス由来の培養心筋細胞は酸化ストレスや低グルコースに対し、野生型(WT)に較べて脆弱であること、また酸化ストレスなどに応答して活性化されるサバイバル因子Aktの活性化がKO群では起こりにくいことが明らかとなっている。本年度では、これらの解析をさらに進め、KOマウス心筋において細胞内ATPレベルが低下していることを見出した。そこで、細胞外フラックスアナライザーを用いて酸化ストレス前後におけるミトコンドリアの機能を解析したところ、基底状態においてミトコンドリア呼吸量がKO群で顕著に減少しており、またH2O2添加により更に低下することがわかった。詳細な解析により、基底状態ではミトコンドリア機能に異常が有るというよりはミトコンドリア量が低下しており、H2O2添加時では、それを中和する働きのあるプロトンリーク活性が上昇しないことにより、H2O2が除去できないのでないかと考えられた。さらにこのようなKOマウスのストレスに対する脆弱性は、心筋虚血―再灌流モデルでも認められた。以上の結果から、NCS-1がミトコンドリアの機能維持を介してストレスへの抵抗性に寄与しているという新規の役割が明らかとなった。
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