研究課題/領域番号 |
24590300
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
松崎 健太郎 島根大学, 医学部, 助教 (90457185)
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研究分担者 |
紫藤 治 島根大学, 医学部, 教授 (40175386)
片倉 賢紀 島根大学, 医学部, 助教 (40383179)
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キーワード | 暑熱馴化 / 視床下部 / 選択環境温度 / 神経新生 |
研究概要 |
【背景】これまでに我々は長期暑熱馴化が形成されたラットの視床下部で神経前駆細胞の分裂と分化が促進されていることを見出した。また、ラット脳室内に細胞分裂阻害薬である Cytosine-arabinoside(Ara-C)を持続的に投与したラットでは、Vehicle投与群に比較して耐暑熱性が有意に減弱した。Ara-C長期投与はラットの腹腔内温、摂食量などに有意な影響を与えなかった。これらの結果は視床下部における神経新生が暑熱馴化の形成に関与する可能性を示唆する。今回はAra-C長期投与による中枢神経系への影響を解析した。 【方法】Wistarラット(5 週齢:雄性)をペントバルビタール(50 mg/kg)で麻酔後に頭皮をメスで切開し頭蓋骨を露出させた。Ara-Cを内蔵した浸透圧ポンプをラット背皮下に留置し、ガイドカニューレをラット右側脳室に挿入した(Ara-C投与群)。対照として生理食塩水を用いた(対照群)。また、ラット腹腔内にはテレメトリー送信機を留置した。10日間以上の回復期間後に、ラットの行動性体温調節を解析した。行動行動実験終了後にラット脳を摘出し、免疫組織学または生化学的な解析を行った。 【結果・考察】対照群の選択環境温度は暗期に低く明期に高かったが、Ara-Cの持続投与は選択環境温度に有意な変化を与えなかった。また、Ara-C投与群の腹腔内温は対照群と比較してほとんど変化していなかった。Ara-C投与群の暑熱耐性は対照群よりも減弱する傾向を示したが有意差は認められなかった。暑熱刺激後にラット脳を摘出し免疫組織学解析を行った結果、両群の視床下部におけるc-Fos陽性細胞数に顕著な差は確認できなかった。また、Ara-C投与は各種シナプスマーカーの発現に影響を及ぼさなかった。以上の結果より、Ara-Cの脳室投与はラットの行動性体温調節や暑熱負荷時の体温上昇や視床下部ニューロンの応答性にはほとんど影響しない可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ara-C長期投与はラットの行動性体温調節や視床下部の神経活動に有意な影響を与えていないことが確認された。この結果は視床下部における神経新生が暑熱馴化の形成に関与する可能性を支持すると考えた。今後、長期暑熱馴化形成時に視床下部で新生したニューロンの末梢における機能性を解析することが主な目的となる。さらに、長期および短期暑熱馴化における視床下部神経の器質的・機能的変化を解析し、暑熱馴化の形成に関与する中枢機構の解明を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
今後、視床下部で新生したニューロンの機能を特定するために、神経新生を阻害したラットの①皮膚血流量、②血圧・心拍数、③体液量、④代謝量、⑤唾液分泌量と組成変化、などの暑熱馴化形成の指標を測定する。なお、これまでの組織学的な解析により、新生したニューロンは前視床下部/視索前野(POA/AH)に最も多く発現しており、その一部は視床下部背内側核(DMH)に投射していることを確認している。POA/AHからDMH に投射するニューロンは暑熱環境下における皮膚血管運動や血圧の調節に深く関与することから、新生ニューロンの機能としてこれら循環機能調節への関与を推察している。
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次年度の研究費の使用計画 |
投稿論文が25年度内に受理されておらず、投稿費用の支払いが遅れているため、26年度に繰り越した。 現在、論文をリバイス投稿中であり、受理され次第投稿費用の支払いを行う。
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