研究課題/領域番号 |
24590306
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
鯉沼 聡 近畿大学, 医学部, 助教 (10340770)
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研究分担者 |
長野 護 近畿大学, 医学部, 講師 (80155960)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 視交叉上核 / 概日リズム / 位相波 / Per2 / ルシフェラーゼ |
研究概要 |
哺乳類体内時計の中枢である視交叉上核は、安定した概日リズムを発振する。この時、視交叉上核内の神経細胞同士は緊密に同期しているため、お互いが等しい周期を保つが、振動の位相は領域によって大きく異なり、視交叉上核の最内側領域から外側領域に向かって波のように振動のピークが伝播することが知られている。しかし、この現象が視交叉上核のリズム発振機構にどのように関与しているかは不明である。我々は、視交叉上核の同期シグナルであるcAMPを恒常的に活性化し、信号伝達を撹乱することで、位相の波の起点領域に周期の短い細胞集団が存在することを見出した。位相波形成の生理学的意義を解明するために、この短周期領域の性質を明らかにすることが本研究の目的である。 平成24年度においては、視交叉上核の背内側部、短周期領域におけるトランスクリプトーム解析を行うために、採取する短周期領域の位置、および外側部に存在する長周期領域の位置を詳細に解析した。具体的には、Per2::Lucラット視交叉上核の吻尾方向に異なるレベルにおいて組織切片を作製し、それらを内外側に切り分けることで、相互の信号伝達を遮断した状態で発光リズムを測定し、それぞれの周期を算出した。さらに、切断した各々のサブ領域を冷却CCDカメラによって撮影し、位相波への影響を測定した。周期解析の結果、尾側の背内側領域に周期の短い細胞が多く存在していることを見出した。また、興味深いことに外側部のみを切断した切片からも位相波が観察された。これらのことから、短周期領域の配置についての情報を得るとともに、少数の短周期細胞のみでも位相波を形成し得る可能性があり、視交叉上核において頑健性をもった位相波形成システムが存在していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題の目的は視交叉上核背内側部に限局して存在する短周期領域の解析を通し、位相波形成の生理学的意義を検索することにある。初年度は背内側部および腹外側部の分子生物学的な解析、主にトランスクリプトーム解析を中心に実験計画を立てていた。現在、極めて微小な対象組織から解析に十分な量の総RNAを抽出することに取り組んでいる段階であり、当初の予定より若干遅れている。しかしながら、本年度の実験結果からは、目的となる細胞が数多く存在すると考えられる領域についての空間的情報が得られており、このことはこれからの試料採取を効率的に進める上での重要なデータになる。また、短周期領域の細胞が少数のみ含まれるような視交叉上核腹外側領域の組織切片を作製した場合においても、背内側・腹外側両方を含んだ組織切片と同様に位相波形成を生じ得ることが明らかになったことは、これまで不明な点が多かった視交叉上核の位相波形成のメカニズム解明につながる新たな知見が得られたと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究遂行上の課題としては、脳内の微小領域から、トランスクリプトーム解析に必要な量のRNA試料を正確に採取することが挙げられる。この点については研究申請の段階から技術的な困難が予想されており、そのため、この実験系に関する技術と経験を有する他研究者からの技術的な支援を仰ぐ予定であった。現在、これらの研究者との間において連係態勢を築いていることから、今後、実験手技などについての助言を受けながら課題を遂行する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題の平成24年度の執行率は99.4%であり、ほぼ予定通り使用した。残りの0.6%分(13,136円)については、25年度分の研究費と併せて、当初の研究申請書に記載した通り、組織・細胞培養関係試薬、分子生物学関係試薬、組織化学関係試薬などの消耗品として使用する予定である。
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