研究課題/領域番号 |
24590307
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研究機関 | 独立行政法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
前川 文彦 独立行政法人国立環境研究所, 環境健康研究センター, 主任研究員 (40382866)
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キーワード | レトロトランスポゾン / 性的二型核 / 脳 / マウス / エピジェネティクス |
研究概要 |
環境化学物質が子どもの脳に働き、正常な脳の発達を妨げることが懸念されている。環境化学物質の影響機序の一つとして、レトロトランスポゾンの一種であるLong interspersed element-1(L1) のRNA発現量増加およびそのゲノムDNAへの再挿入の増加が報告されており、化学物質曝露の曝露影響バイオマーカーとしても広く用いられている。脳内では他の臓器に比べてL1が強く発現しており、化学物質曝露によってより強くL1が発現し、その結果、脳の発達の異常が誘導される可能性がある。前年度までの研究で、マウスを用いた動物実験により、視索前野におけるL1 RNAの発現に雌雄差があることが明らかとなっている。本年度は①L1発現を制御するエピジェネティック要因の解明と、②L1のDNA再挿入の検討を行った。①に関しては、a) DNAメチル化を制御することが知られているDNAメチル基転移酵素Dnmt1, Dnmt3a, Dnmt3b、b) 脳におけるDNAメチル化の安定に重要なMeCP2、c) DNAの脱メチル化に重要な役割を果たすTet1, Tet2, Tet3の発現を視索前野で検討したところ、Tet2の発現に有意な性差が認められた。このことはTet2の発現増加が引き金となり、DNA脱メチル化が起こりその結果L1発現に性差が生じている可能性を示唆している。一方②に関しては、遺伝子組換えによりL1のゲノムへの再挿入を検出できるマウスを系統維持しており現在も検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は平成24年度に先行して始めたL1発現の性差の分子メカニズムに関わる研究において大きな進展がみられ、DNAのエピジェネティック修飾が性差形成に何らかの影響をあたえていることが明らかになりつつある。一方で、L1ゲノム再挿入の性差に関しては未だ十分な検討ができていない。
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今後の研究の推進方策 |
L1ゲノム再挿入の性差に関して、現在までは遺伝子組換えマウスの利用にこだわって研究をおこなってきたが、それに加えてゲノムDNAを抽出し、直接検討することを開始し、より多面的に検討を行うことを予定している。また、DNAのエピジェネティック修飾がどのようにL1発現の性差につながるのかに関してはより掘り下げて検討を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度にはbisulfite sqeuencing法を用いてDNAメチル化解析を行う予定であったが、エピジェネティック修飾に関連する因子の発現に関する研究が大きく推進したことで順序的に後回しになった。平成26年度には、このような結果をふまえて、エピジェネティック修飾に関連したDNA修飾およびヒストン修飾に関連するエピジェネティック解析を行う。特に平成25年度に判明したTet2発現の性差に対応したようなDNAやヒストン修飾に着目して研究を行う。 研究に必要な設備はほぼ整っているので、予算の多くを消耗品として計上する。特に、ゲノムDNAやヒストン修飾の解析に必要な分子生物学的研究に資する試薬に多くの予算を計上する。さらに、動物の飼育管理や遺伝子組み換えマウスのジェノタイピングに必要な作業に必要な予算を計上する。また、25年度に行った研究成果に関して学会発表等を行うため予算を計上する。
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