発達期の脳は、神経突起伸張やシナプス形成が起こる形態形成時期であり、この時期に脳への有害影響は永続的な脳機能の低下を引き起こす。また血液脳関門の形成も十分でないため、呼吸器や消化器経由により取り込んだ有害化学物質の影響をうけやすいことも知られている。このような環境化学物質の発達期の脳への有害機序の一つとして、脳内のでのレトロトランスポゾン増加が考えられる。特にレトロトランスポゾンの一種であるLong interspersed element-1(L1)のRNA発現量増加およびそのゲノムDNAへの再挿入の増加が危惧されている。前年度までの検討により、マウスを用いた動物実験から、脳内の視索前野においてL1の発現の雌雄差があることが明らかになった。また、L1発現を制御する因子として、DNAメチル化因子の発現を検討したところTet2の発現に有意な性差が認められた。本年度は、実際の有害化学物質の曝露が直接的なL1の発現誘導を引き起こし、さらにその影響に性差があるのか調べる第一歩として、大気汚染物質として知られる有機二次エアロゾルを発達期にマウスに曝露し、その行動とレトロトランスポゾン発現への影響を調べた。その結果、マイルドな行動異常が検出されるとともに、L1発現の異常が検出された。これらの結果から有害物質曝露下におけるL1の発現の性差を調べる基盤を構築することができた。
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