研究課題
エンドセリン-1 (ET-1) は,血管内皮細胞で産生される血管収縮性・炎症性ペプチドであり,肺高血圧症や動脈硬化症などの循環器疾患の発症・進展において,重要な役割を担っている。ET-1の有する強力な血管収縮作用は,2種類のET受容体 (ETR) サブタイプ (ETAR,ETBR) を介して引き起こされる。ET-1の血管収縮作用は,長年に亘って研究されてきたが,最近では,2型糖尿病におけるET-1の役割が注目されている。例えば,ET-1による2型糖尿病の発症機序として,ET-1の血管収縮作用に起因する末梢でのグルコース利用率低下やインスリン感受性の低下が報告されている。しかし,骨格筋細胞に対するET-1の直接作用の効果,即ち,骨格筋でのグルコースの取り込みやインスリン受容体シグナルに及ぼす影響については不明な点が多い。そこで,本年度は,ETRを介したインスリン受容体シグナルの制御機構について検討した。骨格筋細胞において,インスリンは,PI3キナーゼの活性化を介した持続的なAktのリン酸化 (308番目のトレオニン残基・473番目のセリン残基) を引き起こすことを明らかにした。一方,ET-1は,ETARを介したERK1/2のリン酸化を惹起するものの,Aktのリン酸化は引き起こさないことを見出した。そして,インスリンによる持続的なAktのリン酸化はETAR刺激によって顕著に抑制され,このETARを介したインスリン受容体シグナルの抑制は,GRK2のドミナント・ネガティブ体の過剰発現によって解除されることを明らかにした。これらの知見から,ETAR刺激依存性に遊離されたGタンパク質のβγサブユニットにリクルートされたGRK2が,インスリン受容体を介して活性化されるPI3キナーゼ/Akt系を抑制性に制御していることを示唆した。
2: おおむね順調に進展している
2012年度は,本研究の最終目的である新規2型糖尿病発症メカニズムの解明に大きく貢献する知見を得ることに成功した。即ち,エンドセリン受容体を介したインスリン受容体シグナルの抑制性制御機構を解明した。本年度に得られた知見は,原著論文2報分として,発表される予定であることから,本研究計画は,おおむね順調に進展していると考えている。
補助事業を辞退するため、記入しない。
該当なし。
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