研究課題
基盤研究(C)
本研究は、スフィンゴ脂質による内向き整流性カリウム(Kir)チャネル機能制御機構の基本的理解を目指すものである。初年度である平成24年度は「シグナル伝達経路」と「脂質―チャネル相互作用」の解明に重点をおいて研究を行った。各種のKirチャネルは培養哺乳類細胞に異所性に発現させ、パッチクランプ法によってイオンチャネル電流を測定し、機能を評価した。Sphingomyelinase(SMase)の細胞外灌流によってKir4.1チャネルやKir2.1チャネル電流が減少することを代表者は既に見出している。今回、SMase阻害薬のGW4869(10 microM)の同時投与、あるいはSMaseの熱変性によって、SMaseのKir4.1、Kir2.1チャネル電流抑制が阻害されることが分かった。つまりSMaseの酵素活性が重要な役割を果たしていると考えられた。さらに、SMaseによるKir4.1、Kir2.1チャネル電流抑制は、ceramideからsphingosineを産生するceramide(CDase)の阻害薬MAPP(10 microM)によっても阻害されることが分かった。このことからsphingomyelinからceramideを介しsphingosineを産生するシグナル伝達経路がKirチャネル電流を抑制していると考えられた。脂質―チャネル相互作用を明らかとするために変異Kirチャネルに対するSMaseの作用を解析した。この実験では、アフリカツメガエル卵母細胞を発現系として用いている。この解析の過程で、細胞膜のチャネル発現量がSMaseの効果に影響する可能性を見出した。この可能性の検証実験を現在行っている。発展的に、SMaseのhERG Kvチャネルに対する作用を検討し、SMaseはKirチャネルと同様にhERGチャネル電流も抑制することが明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
平成24年度に計画した研究は順調に実施された。予備的な検討から予見されていたスフィンゴ脂質による内向き整流性カリウムチャネル抑制のシグナル伝達経路を薬理学的な解析によって実証することが出来た。また、変異Kirチャネルも作成されており、チャネル発現量の条件が実験結果に及ぼす影響に関しても予備的な検討が進められ、生理活性脂質とチャネルの相互作用部位を解析する実験条件がほぼ整ったといえる。ここまでの成果により、当初の計画通り順調な進展をしていると言える。また発展的に行った検討から、SMaseはhERGチャネル電流も抑制することも明らかにできた。各種Kirチャネルに加えhERGチャネルも研究対象に加えることが出来、脂質―チャネル相互作用を明らかにする目的達成の可能性が高まった。またhERGチャネルは心臓機能に重要な役割を果たしていることが良く理解されているため、スフィンゴ脂質によるhERGチャネル機能制御と心臓機能の関連という新しい研究展開の着想に至った。よって本研究は、当初の計画以上に進展していると考えられる。
本研究は計画通り順調に進展している。対策が必要な大きな問題は発生していない。申請時の計画段階から、実験的に検証可能な仮説を立て、実験により仮説が否定された場合の第二・第三の計画を用意している。平成25年度からは、実験動物から単離した細胞やスライス組織標本サンプルを用い内在性のイオンチャネルにおける実験を開始する。この研究を実施するための実験機器や実験手法は既に確立している。従って次年度以降も当初の計画に従って研究を進めることが可能であり、期間内に研究目標を達成出来ると考えている。
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Eur Heart J
巻: 33(11) ページ: 1408-1416
DOI:10.1093/eurheartj/ehr106