研究課題
Kir4.1チャネルやKir2.1チャネル電流はsphingomyelinase(SMase)の細胞外灌流によって減少する。昨年度の解析から、この現象はsphingomyelinからceramideを介して産生されるsphingosineがKirチャネルに相互作用することによると考えられた。本年度、SMaseによるKir4.1チャネル電流抑制の特性を詳細に解析し、抑制に電位依存性はほとんど見られなかったことから、sphingosine-Kir4.1チャネル相互作用は細胞膜電位に依存しないと考えられた。sphingosineは、Kir4.1阻害薬と共通のファーマコフォアを有していた。Kir4.1阻害薬のチャネル内相互作用部位は既に提案されており、sphingosineも同じ部位に相互作用している可能性が考えられた。チャネル内のsphingosineの相互作用する可能性のあるアミノ酸残基を変化させた変異体を用い、SMaseの効果を検討した。変異導入によってSMaseによる電流抑制の強度が変化したが、アミノ酸残基の変化のみならず、細胞膜のチャネル発現量がSMaseの効果に影響するとみられた。この結果から、このシグナル伝達系で標的となるKirチャネルとリガンドであるsphingosineとの量比が作用を制御していると考えられた。細胞膜のチャネル発現量を揃え変異の効果を確かめることで、sphingosine-Kirチャネル相互作用を明らかにできると思わえた。また昨年度、発展的に、SMaseはhERG Kvチャネル電流も抑制することを明らかにした。本年度は詳細な電気生理学的解析を行い、SMaseの処理によりhERGチャネルのゲート特性の変化とチャネルコンダクタンスの変化とが共におこることが分かった。単離心筋細胞にSMaseを作用させ、心筋細胞のカリウムチャネルに対する作用の解析を開始した。
1: 当初の計画以上に進展している
二年目である平成25年度は「脂質―チャネル相互作用」の理解を進めることを目指した。計画した研究は順調に実施された。昨年度の後半から予備的な検討をおこなっているsphingosine-Kirチャネル相互作用に関する実験を実施出来た。また、チャネル機能制御の基盤に関して理解を進めることが出来た。ここまでの成果により、当初の計画通り順調な進展をしていると言える。また発展的に行った検討から、SMaseのhERGチャネル電流制御に関しても理解を深めることが出来た。各種Kirチャネルに加えhERGチャネルも研究対象に加えることが出来、脂質―チャネル相互作用とチャネル機能制御の関連を明らかにする目的達成の可能性が高まった。また、hERGチャネルは心臓機能に重要な役割を果たしていることが良く理解されているため、スフィンゴ脂質によるhERGチャネル機能制御と心臓機能の関連という新しい研究展開の着想に至り研究を開始している。よって本研究は、当初の計画以上に進展していると考えられる。
本研究は順調に進展しており、対策が必要な大きな問題は発生していない。申請時の計画段階から、実験的に検証可能な仮説を立て、実験により仮説が否定された場合の第二・第三の計画を用意している。平成26年度は、実験動物から単離した細胞やスライス組織標本サンプルを用い内在性のイオンチャネルにおける実験を本格化させる。この研究を実施するための実験機器や実験手法は既に確立している。従って次年度も当初の計画に従って研究を進めることが可能であり、期間内に研究目標を達成出来ると考えている。
当初の計画では、スフィンゴ脂質のシグナル伝達系に関する薬理学的な解析に本年度までかかる予定であったが、昨年度、計画以上にスムーズに実施出来たこともあり、本年度の実験の予備的な検討も昨年度始めることが出来ていた。また、実験に問題が発生した場合も想定してバックアッププランも計画していたが、本年度の実験も着実に計画通り進めることが出来たため、バックアッププランは実施の必要がなかった。計画時に想定できなかった新規発見にともなう追加の実験を行ったが、それでも本年度使用予定額の中で全て実施することが出来た。これらの理由により、次年度使用額が生じた。研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。
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