研究課題
ミクログリアは活性化を受け、神経毒性と神経保護の相反する作用を発揮する。研究代表者は、ラット初代培養ミクログリアにはTLR4活性化を受け細胞死を起こす細胞と、細胞死を起こさず長期にわたり生存し続ける細胞が存在することを報告してきた。これらの長期生存細胞が自身の生存を維持する機序として、通常ではアストロサイトが産生するGM-CSFをTLR4活性化を受けて自己産生する可能性を見出した。TLR4活性化によりGM-CSF受容体の発現亢進も認められ、この受容体の下流のシグナルであるJAK2チロシンキナーゼと転写因子STAT5の活性化も引き起こされた。従って、これらのGM-CSFオートクライン経路が働くことにより、STAT5が制御する生存関連遺伝子の転写が引き起こされ、生存が長期間維持されると考えられた。また、TLR4活性化長期生存ミクログリアには、死細胞を活発に貪食する細胞が存在する。これらの細胞は通常のin vitro実験に用いる培養1-2週間後のミクログリアには少なく、培養3週間以降急激に増加することが分かった。また、TLR4活性化生存細胞はATP受容体であるP2Y2受容体の著しい発現を引き起こし、死細胞貪食に重要な役割を果たすことを見出し、さらに新たに、TLR4活性化により引き起こされるアデノシンA2a受容体の発現亢進が貪食機能にも重要な役割を果たすことを明らかにした。このように、保護的ミクログリアの機能制御には、ATPやアデノシンなどの一連のヌクレオチドが重要な役割を果たす可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
TLR4活性化を受け長期生存する保護的ミクログリアが、アストロサイトとの混合初代培養系において発現してくる培養条件や時期を明らかにすることができた。これらの成果から、保護的ミクログリアを効率よく選別・増殖させることが可能となった。また、GM-CSF自己分泌系を介した生存維持の機序も明らかし、さらに死細胞貪食機能を制御するヌクレオチド受容体(P2Y2・A2a)も同定できた。これらの新しい知見をもとにさらなる研究発展の基盤が整い、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
アストロサイト・ミクログリア混合初代培養において、なぜ、異なる機能を持つミクログリアが異なるタイムコースで発現してくるのか、その機序を明らかにすることは、脳内炎症疾患におけるミクログリアの機能制御を理解する上で大変重要である。平成26年度は、異なる性質のミクログリアが誘導される機序を明らかにする目的で、ミクログリアの性質を決定するアストロサイト由来因子の同定を試みる。また、GM-CSF産生ミクログリアを回収・増殖させ、神経細胞との共培養から神経細胞に対する神経保護効果を検討する。さらに、これらの機能発現におけるヌクレオチド(ATP・UTP・アデノシン)とその受容体(P2Y2・A2a)受容体の役割についても分子レベルで解明を進める予定である。
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