研究実績の概要 |
ラット初代培養ミクログリアは、LPSによりTLR4活性化を受けると強い炎症反応により自ら細胞死を起こすが、そのなかに高い死細胞貪食能をもち長期生存するミクログリアが現れる。これらの細胞はP2Y2受容体・アデノシンA2a受容体の著しい発現亢進を引き起こすことから、細胞外ヌクレオチドによる制御能を新たに獲得する可能性がある。このLPS刺激後の受容体発現誘導はP2Yサブタイプ(1,2,4,6,12,13,14)のうちP2Y2に特異的であった。ATPは速やかに加水分解しアデノシンとなるが、非水解性のATPアナログであるATPγSは持続的なATP受容体活性化を引き起こす。LPS活性化ミクログリアをATPγSで刺激すると、神経保護作用のあるVEGF、アクチビンA、アルギナーゼ1の遺伝子発現が著しく上昇した。これらのうち、アルギナーゼ1とアクチビンAのmRNA発現亢進はP2受容体アンタゴニストであるスラミンで有意に抑制された。これらの結果から、TLR4活性化を受け長期生存するミクログリアは細胞外ATPの刺激により神経保護因子を産生する可能性が示された。 一方、ラット初代培養大脳ニューロンは血清不含DMEM低栄養培地中では細胞死を起こすが、ミクログリアと共培養すると長期にわたり生存し続けた。このミクログリアの神経保護作用はLPS刺激を受けたミクログリアにより強く認められた。すなわち、ニューロンはTLR4活性化ミクログリアが分泌する神経保護因子を持続的に受けとることにより生存を維持する可能性が示唆された。 以上の結果から、TLR4活性化ミクログリアの長期生存サブポピュレーションは受容体発現を介したATPシグナル亢進を介してアクチビンAなどの神経保護因子を産生し神経を保護する新しい機序が示された。
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