パクリタキセルは固形癌の治療に用いられている抗癌薬であるが、副作用に末梢神経疼痛が知られている。芍薬甘草湯はパクリタキセルによるマウスの末梢神経疼痛を軽減させることが報告された。また、神経因性疼痛に電位依存性T型カルシウムチャネル(Cav3.2)が関与していることが報告されている。そこで、芍薬甘草湯がT型カルシウム電流を抑制するかを、ヒトT型Caチャネル(hCav3.2)を発現させたHEK293細胞を用いてホールセルクランプ法で調べた。その結果、芍薬甘草湯はCav3.2 T型カルシウム電流を濃度依存性に抑制した。10mg/mlの芍薬甘草湯はT型Ca電流を完全に抑制した。芍薬甘草湯のIC50値は1.3 mg/ml でHill 係数は1.1であった。神経因性疼痛に有効な漢方薬には、芍薬甘草湯の他に、牛車腎気丸と附子がある。そこで、牛車腎気丸と附子のT型Ca電流に対する作用も調べた。牛車腎気丸10 mg/ml はT型 Ca 電流を-20 mMでコントロールの57.7 ± 6.6 % に減少させた。附子 10 mg/ml は-20mVで T型 Ca 電流をコントロールの 58.3 ±5.6 % に減少させた。これらのことから、芍薬甘草湯は牛車腎気丸や附子よりも強くT型Ca電流を抑制することがわかった。 結論として、パクリタキセルによる末梢神経疼痛を芍薬甘草湯が軽減させる機序に、T型Ca電流抑制が関与する可能性が示唆された。
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