研究課題
Gタンパク質共役型受容体(GPCR)は創薬の対象分子ファミリーとして重要な位置を占め、上市されている医薬品の30%以上がGPCRファミリーに属する受容体を標的としている。最近では、これまで困難であった構造解析研究の成果により、特定のGPCRが特異的薬物やGタンパク質と分子間相互作用する機序の詳細について知見が得られている。GPCR分子単体での構造は解明されつつあるが、未だ課題も残されている。具体的には、近年このGPCRファミリーは二量体または多量体で機能することが報告されており、同種受容体同士が二量体を形成するホモマー複合体受容体に加え、互いに異なる受容体モノマー同士が一つのヘテロマー複合体受容体を形成し、構成要素となる受容体モノマーがそれぞれホモ受容体を形成した際には見られない、全く新たな受容体機能を獲得する例が明らかになりつつある。しかし、受容体複合体を機能単位として捕らえ、この働きを制御することを目的とした創薬手法は未だ開発されておらず、この点が本研究の果たす役割と考えられる。具体的な応用例として本研究では、オピオイド受容体と複合体を形成し得るGタンパク質共役型受容体について、各種のスクリーニング系を開発しながら検索し、オピオイドの鎮痛効果を増強する或は副作用を軽減する化合物を見出すことを目的としている。これまでの成果を踏まえ、本年度は、オピオイド受容体による鎮痛、耐性獲得機能に影響を与える化合物のスクリーニング系を培養細胞系において確立し、実際にスクリーニングと見出した化合物の効果の評価を行なった。その結果、オピオイド受容体刺激薬のモルヒネと相互作用する非オピオイド受容体リガンドで、モルヒネと共存する場合には、アデニレートサイクラーゼ(AC)のフォルスコリン感受性亢進を有意に抑制する複数の化合物を見出すことに成功した。
2: おおむね順調に進展している
臨床的には強力な鎮痛効果示すモルヒネであるが、繰り返し使用するにより、鎮痛効果の減弱である鎮痛耐性や、身体的薬物依存を起こす場合が知られる。本研究では、ヘテロマー複合体受容体をモデルに、副作用の発現機序を解明し、予防に役立てる手段を探索することが主要な目的の一つとなっている。昨年度からの研究により、研究の第一段階として、MOR1オピオイド受容体と相互作用する非オピオイド受容体をスクリーニングし、相互作用が確認できた受容体の生体内における共発現解析を進めてきた。mu-オピオイド受容体と直接相互作用する可能性がある受容体については、オープンソースのデータベースにある発現分布情報と、実際の脳内組織分布解析を合わせて受容体の共存情報をより確実な形で得ることに成功した。さらに本年度も、cAMPの産生を抑制するオピオイド受容体の機能が、ヘテロマー発現細胞で変化するかについて、オピオイド単独、あるいは非オピオイドリガンドとの共存下で検討を行った。さらにMOR1受容体単独発現細胞では非オピオイドリガンドの効果は見られないことをネガティブコントロールとして確認しながら確実に研究を進めている。以上より、オピオイド受容体を介して起こす薬物耐性や依存性を軽減させるためのリガンドの候補が発見されつつあり、研究は本年度まで予定通りおおむね順調に進行していると考えられた。
1)βアレスチンを介する可能性のある細胞内情報伝達の解析;βアレスチンを介するMAPK、AKT、PI3K、ELKなどのリン酸化は、Gタンパク質に依存性の場合と、非依存性で、βアレスチンのみに依存性の細胞内シグナルが発生する場合が知られる。そこで、細胞内シグナルを担うリン酸化タンパク質、キナーゼの複合体形成によるシグナルの変化を、複合体受容体を刺激後に解析する。この場合、MOR1受容体単独、非オピオイド受容体単独、または共発現した細胞を比較し、モルヒネと非オピオイドリガンドの共存によって、単独受容体が刺激された時よりも有意に増強または減弱するリン酸化が観察された場合に、ヘテロマー受容体が機能的である可能性があると考える。ただし、単に共発現した受容体同士が細胞内で情報伝達のクロストークを行なっている可能性もあるため評価は慎重に行う。この他にβアレスチン1または2タンパク質を過剰発現またはノックダウンさせた場合の影響も検討する。さらに、ヘテロマー受容体とβアレスチンの直接相互作用について、免疫沈降法や細胞内での局在を可視化し解析する。2)受容体細胞内局在変化の解析;MOR1受容体のインターナリゼーションによる細胞内局在変化は受容体の脱感作を解除するために重要であることより、この受容体と非オピオイド受容体を共発現させた細胞で、刺激の有無による受容体の局在変化を解析する。このために受容体のアミノ基末端にはタグ抗原のHAまたはFLAGを付加して発現させ、蛍光免疫染色して受容体局在を観察する。以上により、見出したオピオイドへテロマーの細胞内シグナル伝達経路の特徴を明らかにする。
研究を効率的に進めることにより当初の研究予算に満たない額で予定した進展が可能であった。すなわち、公共データーベース(Allen brain atlas、Expression omnibus、GEO)より受容体発現情報を得て、オープンソースのR計算環境で画像分布の重なりを解析したため、この段階での経費は無償となり、抗体を用いた次年度以降の受容体―アレスチン相互作用の解析などさらに進んだ受容体複合体の機能解析により多くの研究を用いることが可能となった。オピオイド受容体、非オピオイド受容体、アレスチンタンパク質の相互作用解析のため、抗体による免疫沈降実験を行う。
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