これまでの薬の約30%以上が標的としているGタンパク質共役型受容体(GPCR)は、医薬品が作用する分子群として重要な位置を占める。GPCRを標的とする医薬品を開発する際、多くは特定の受容体に選択的に作用する化合物を得ることを目指す。また、GPCRの内在性リガンドについても、多くは限られた受容体サブタイプにのみ結合する。近年の構造解析研究の成果により、特定のGPCRが特異的薬物やホルモンと分子間相互作用する分子機序が明らかになりつつあり、in silicoでの薬物スクリーニングにも応用が期待されている。今年度の研究において我々は、GPCRのアロステリックリガンドを検索する過程で、特異な受容体選択性を示すペプチドリガンドを発見した。すなわち、既に知られるリガンドと受容体の対応関係を越え、複数の受容体ファミリーを含む、広範囲な受容体に結合が可能な合成ペプチドの同定に成功した。この合成ペプチドは元来サブスタンスP受容体の拮抗薬として開発され、ボンベシン受容体にも阻害効果を持つことが注目されていた。我々は、さらにこの合成サブスタンスP受容体拮抗薬が、バゾプレッシン受容体サブタイプV1b、V2、さらにオキシトシン受容体にも結合することを見出した。さらに、GPCRファミリー受容体のアミノ酸配列とリガンドの結合親和性を合わせて解析することにより、ある受容体とリガンドの親和性を予測することを可能とする薬理学的リネージ解析法を確立した。この解析法により、GnRH受容体の合成サブスタンスP受容体拮抗薬への親和性を予測することに成功した。以上より、アロステリックリガンドとともに、広域な親和性を持つペプチドは、ヘテロマーを形成した受容体の機能調節に有効な手段であると示唆され、今後のリガンド探索に有効なツールであると考えられられた。
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