研究課題/領域番号 |
24590345
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研究機関 | 公益財団法人野口研究所 |
研究代表者 |
井手尾 浩子 公益財団法人野口研究所, 研究部, 研究員 (90180322)
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研究分担者 |
山下 克子 横浜市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 客員教授 (70030905)
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キーワード | ガレクチン / チロシンリン酸化 / 細胞外分泌 / 感染防御 |
研究概要 |
病原性細菌やウィルスの感染によって、シグナル伝達系が活性化され、その後の様々な生体反応が引き起こされるが、細胞内のガレクチンが感染、炎症時に細胞外に放出される機構は不明であった。ガレクチン-4高発現細胞株を用い、細胞のチロシンリン酸化を亢進させてガレクチン-4の細胞内局在、分泌を調べた。その結果、ガレクチン-4はSrc Family kinaseによってチロシンリン酸され、その細胞外放出は増大することを見出した。ガレクチン-4のC末端ペプチドがSrcキナーゼやSHP2ホスファターゼのSH2ドメインと結合すること、このC末端ペプチドを欠失したガレクチン-4変異体ではチロシンリン酸化が抑制されると共に、その細胞外放出も抑制されることから、ガレクチン-4のリン酸化にそのC末端ペプチドが重要であることを明らかとなった。このように感染の重要な侵入経路となる消化管に多く存在し、糖蛋白質の輸送に関係するガレクチン-4の細胞外への放出が、シグナル伝達分子により制御されることを初めて明らかにした。 さらに、ガレクチン-4が転移性の高いNUGC-4胃癌細胞株に発現するMUC-1に結合し、その細胞外分泌に関与することを見出した。抗体とガレクチン-4を用いて構築したELISA法よって数百例の乳癌患者血清中のガレクチン-4結合性のMUC-1糖鎖の測定を行なった結果の解析を行い、CA15-3より高感度で再発、転移乳がんを検出できることを見出し、実用化にむけ、検討をはじめている。 また、マクロファージ様細胞がGPIアンカー糖鎖をレセプターとする毒素エアロリシンに高い感受性を持つことから、糖やレクチンが感染、炎症にどのように関与するか調べ、感染、炎症を制御する物質の探索を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
感染に続いておこるシグナル伝達系の活性化において、細胞質内のガレクチン-4のシグナル分子としての新たな役割を初めて解明し、論文にすることができた。 また独自に開発したELISA法により測定した数百例の乳癌患者血清中のガレクチン-4結合性MUC-1糖鎖の測定結果の解析により、CA15-3より高感度で再発、転移乳がんを検出できることを見出すことができた。 さらにGPIアンカー糖鎖をレセプターとする毒素エアロリシンにマクロファージ様細胞が高い感受性を持つことから、その感染、炎症の生体防御機構への糖やレクチンの関与を調べる目的で、新たに感染モデル細胞系として構築できた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は購入した分子間相互作用測定装置等を利用し、より詳細なメカニズムの解明を目指すとともに、現所属研究所の合成化学部門と協力して、糖及びその類縁化合物による感染防御、炎症抑制、抗癌作用等に関しての研究を進めていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
旧所属研究所で使用していた分子間相互作用測定装置(Biacore2000)が新しく移動した先の研究所に無いため、分子間相互作用測定装置を新たに購入する必要があった。今年度に関しては、装置を必要としない実験計画を優先させて行ったが、研究の発展の為に分子間相互作用測定装置を購入する必要があり、予算をその為に残す必要があった。 旧所属研究所から現在の研究所に移動の際に、多くの高価な消耗品を移動することができたこと、細胞培養等に係る消耗品に関しては所属研究室での共通の在庫が多量にあったこと、実験が成功し今年度の成果に関しては比較的スムーズに結果を出せた為、新たな消耗品の購入を抑えることができた。その為、上記の装置の購入の為の予算を残すことができた。 25年度中に予算内で購入可能な分子間相互作用測定装置の比較検討を終え、購入予定機種に関してはデモ機を借りて実際に実験を行い、性能を確かめ発注した。米国からの輸入品であり、米国での検査に時間がかかったこともあり、25年度中に納品は間に合わなかったが、現在当該機器は納品されたところであり、今年度予算とあわせて支払い予定である。
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