研究課題/領域番号 |
24590346
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
鈴木 健之 金沢大学, がん進展制御研究所, 教授 (30262075)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | がん遺伝子 / レトロウイルス / 挿入変異 / 疾患モデルマウス / エピジェネティクス |
研究概要 |
従来の研究で確立したウイルス挿入変異法やBlm遺伝子変異のもとでの両アリル変異法を用いて、腫瘍の発症や細胞の不死化に関連する遺伝子群の単離を進めた。その結果、ヒストンおよびDNAのメチル化修飾の制御に関与する酵素群を重要な候補遺伝子として同定した。このようなエピジェネティクス制御機構の異常は、可逆的に元に戻すという治療戦略が想定されるため、次世代のがん治療の標的として注目される。現在、がんの発症・悪性化の様々なステップにおいてエピジェネティクス制御因子の果たす役割を解明することを目的として研究を進めている。 挿入変異の標的として同定したヒストンのメチル化酵素(EZH2, SETD7など)と脱メチル化酵素(JMJD5, PLU1, UTXなど)のうち、JMJD5の生理機能や発がんにおける役割を解明するために、ノックアウト(KO)マウスを作製した。Jmjd5 nullマウスは、胚性致死の表現系を示し、その原因のひとつが、細胞周期制御因子p21/Cdkn1aの異常な発現亢進であることを見いだした。マウス胚線維芽細胞を用いた解析からもJMJD5が細胞増殖の制御に重要であることが示された。クロマチン免疫沈降解析の結果、JMJD5はp21/Cdkn1a遺伝子の転写領域上のヒストンH3K36のメチル化状態を変化させて、その発現調節に関与することが明らかになった。さらに、p21/Cdkn1a以外のp53によって発現制御される標的遺伝子の解析や、Jmjd5 KOマウスとp53 KOマウスとの交配実験などから、JMJD5がp53シグナル経路をFine-tuningする新しいタイプの制御因子であることを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がん細胞の浸潤をはじめ、上皮・間葉転換(EMT)や薬剤耐性などは、がんの悪性化や難治性の本態であり、これらを阻止するがんの治療法の開発は極めて重要である。挿入変異の標的として同定したヒストンのメチル化酵素(EZH2, SETD7など)と脱メチル化酵素(JMJD5, PLU1, UTXなど)について、乳がん、肺がん、大腸がんなどさまざまながん細胞株を用いて発現解析を行なった。その結果、がん細胞の浸潤能、上皮系•間葉系の特徴、抗がん剤耐性などの性質と相関性を示す発現様式をもつ酵素を複数同定することができた。また、酵素によって発現調節される標的遺伝子を探索する方法として、網羅的cDNAシークエンスデータを情報学的に処理するデジタル発現プロファイル法を確立し、標的遺伝子候補のデータベースを作成することもできた。
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今後の研究の推進方策 |
がんの新しい分子標的の開発のために、より良い標的を探索する研究(ウイルス挿入変異による候補探索)と、有望な標的に注目して掘り下げる研究(エピジェネティック制御因子の解析)を今後も継続していく。DNAのメチル化やヒストンのアセチル化と発がんとの関係は、古くから研究がさかんで、既に阻害薬が開発されているのに対し、ヒストンのメチル化制御は、最近開拓され発展している研究分野である。これまでに私たちは、細胞の浸潤能や上皮-間葉転換(EMT)、抗がん剤耐性獲得に関与するヒストンのメチル化制御酵素を発見しており、酵素の標的遺伝子の探索を通して、がんの悪性進展諸過程におけるヒストンメチル化の新しい役割を解明していきたい。また、メチル化制御酵素によるmicroRNAの発現調節や、ヒストンメチル化とDNAメチル化との相関性、さらにはDNAの積極的脱メチル化に関わる酵素群とがんとの関係についても重要な知見を得ており、エピジェネティックスに関与する様々な制御因子について解析を広げていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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