研究課題/領域番号 |
24590351
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
田中 裕之 滋賀医科大学, 医学部, 助教 (10293820)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | D-セリンデヒドラターゼ / PLP酵素 |
研究概要 |
D-セリンデヒドラターゼはD-セリン分解酵素であり、脊椎動物体内でD-セリン濃度調節に関与していると考えられる。その調節機構を調べるため、本年度は本酵素の大量発現系の構築および免疫組織化学による組織局在の解析を目指した。 (1) D-セリンデヒドラターゼの発現系を確立するため、ニワトリ腎臓からクローニングした本酵素のcDNAによって形質転換させたプラスミドを調整し、大腸菌(BL21株)へ導入した。その大腸菌を培養し、得られた菌体を破砕して分析した結果、N末端にヒスチジンタグを融合したリコンビナント酵素の発現が可溶性画分に確認された。 (2) D-セリンデヒドラターゼは、哺乳類を除く脊椎動物に広く保存されていることがデータベースにより予想される。実際に発現している組織局在を明らかにするため、魚類・両生類・爬虫類・鳥類における本酵素の活性をスクリーニングした。その結果、これらの脊椎動物における本酵素の活性は、脳、肝臓および腎臓に検出された。さらに、最も高い活性が検出された腎臓に対して免疫組織化学を行い、得られた脊椎動物の腎臓における細胞局在を比較した。ニワトリ腎臓由来の本酵素を抗原として作製したウサギポリクローナル抗体を用いた免疫組織化学の結果、本酵素の陽性細胞は近位尿細管に限局しており、特にニワトリ腎臓では管腔側の刷子縁膜に強く発現していた。腎糸球体・遠位尿細管および集合管では発現が観察されなかった。一般に、セリンを含むアミノ酸は腎臓において糸球体でろ過され、近位尿細管で分泌・再吸収される。本酵素は、脊椎動物の近位尿細管においてD-セリンを分解することで、その体内濃度を調節していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本酵素の発現系の構築および免疫組織化学による組織局在を解析した。D-セリンデヒドラターゼの発現系については、活性レベルでリコンビナント酵素の発現を確認できている。しかし、大量発現系を構築するまでには至っていない。X線結晶構造解析を行うためにはさらに十分な酵素量が必要であり、発現量を改善しなければならない。組織局在の解析については、脊椎動物の脳、肝臓、腎臓に発現していることを明らかにした。このうち、腎臓および肝臓については発現細胞を明らかにしたが、中枢神経系においてはその同定に至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
部位特異的突然変異型の酵素について大量発現系を構築し、X線結晶構造解析を行い本酵素が活性中心に持つ亜鉛イオンの役割についてさらに調べる。また、中枢神経系におけるD-セリンデヒドラターゼの発現について、現在までにニューロン以外の特定の細胞に発現していることが分かっている。今後、どのタイプのグリア細胞に発現しているかを明らかにするため、既知の抗体を用いて蛍光二重染色を行い、アストロサイト・オリゴデンドログリア・ミクログリアのいずれに特異的であるかを明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、野生型および変異型の酵素について大量発現系を構築する。まず、現在の酵素発現量を改善するため、大腸菌の培養条件をさらに検討する。それでも改善されない場合は、発現系の宿主に合わせたコドン出現頻度の最適化を行った人工遺伝子の合成を依頼し研究を進める。この人工遺伝子の合成は当初計画していなかったが、X線結晶構造解析に必要な量の精製酵素を得るためには高発現系が必要であり、改善が期待される。
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