研究課題/領域番号 |
24590351
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
田中 裕之 滋賀医科大学, 医学部, 助教 (10293820)
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キーワード | D-セリンデヒドラターゼ / D-セリン / アストロサイト / NMDA型グルタミン酸受容体 |
研究概要 |
D-セリンは脊椎動物の中枢神経において、NMDA型グルタミン酸受容体に結合し興奮性神経伝達物質として働いている。したがって、脊椎動物の中枢神経にはD-セリン濃度の調節機構が存在していると予想されるがその実態は明らかではない。グリア細胞のひとつであるアストロサイトはニューロンに栄養を供給し、老廃物を回収し、ニューロン間の空間を充填して構造的に支えるだけの細胞と考えられてきたが、近年、情報伝達にも関与する機能が注目されている。 脊椎動物のD-セリン分解酵素としてD-アミノ酸オキシダーゼとD-セリンデヒドラターゼの2つが知られているが、哺乳類以外の脊椎動物、例えばニワトリ中枢神経では、D-セリンデヒドラターゼだけが発現し、D-アミノ酸オキシダーゼは発現していない。本研究では、免疫組織化学的にD-セリンデヒドラターゼの局在を調べ、ニワトリ脳ではアストロサイトがD-セリン濃度の調節に関与していることを明らかにした。 我々のこれまでの研究により、哺乳類の脳ではD-セリンはアストロサイト特異的に発現するD-アミノ酸オキシダーゼによってその濃度調節がおこなわれている。今回の結果とあわせて考えると、脊椎動物の進化軸を通じて興奮性神経伝達物質であるD-セリンの代謝分解はアストロサイトが担っており、D-セリンを介した情報伝達の調節に関与していると考えられる。しかし、アストロサイトがD-セリン分解のために使う酵素は、D-セリンデヒドラターゼからD-アミノ酸オキシダーゼに進化の過程でスイッチしている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々が作製したD-セリンデヒドラターゼのポリクローナル抗体を用いた蛍光二重染色により、D-セリンデヒドラターゼはニワトリ脳においてグリア細胞のアストロサイトに発現していた。今回、D-セリンの分解担当細胞がアストロサイトであることが明らかになったことで哺乳類との比較が可能となり、脊椎動物の進化軸から見たD-セリン代謝の役割の理解が進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
現在までにD-セリンデヒドラターゼ発現量を改善するため、発現系の宿主に合わせたコドン出現頻度の最適化を行い、人工遺伝子を合成した。次年度は、野生型および変異型の酵素について大量発現系を構築するため、大腸菌の培養条件の検討をすすめる。さらに、X線結晶構造解析をおこない本酵素が活性中心にもつ亜鉛イオンの役割について調べる。
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