研究課題
シナプスは神経細胞間の特殊な接着であり、神経伝達の場として神経回路の機能の発現に必須の役割を果しているがその形成の機構は充分には解明されていない。研究代表者は細胞間の接着装置、ネクチン-アファディン系を見出し、その機能を主に上皮細胞において解析してきた。その結果、細胞接着関連分子アファディンが上皮細胞における細胞間接着と極性の形成に不可欠な機能を果たしていることを明らかにしている。本研究では、アファディンによる細胞間接着形成の制御に着目して、シナプスの形成における本分子の機能を解析した。アファディン条件付き欠損マウス(Afadin f/f;nestin-Cre)の海馬においては、上皮細胞のアドへレンスジャンクションに相当するプンクタアドヘレンシアジャンクションを形成する細胞接着関連分子である、カドヘリン、ネクチン、β-カテニンなどのシグナルの集積はほぼ完全に消失していたが、シナプス前膜の構成分子のバスーンやVGLUT1といった分子の集積は、完全に消失してはいなかったが明らかに低下していた。さらに、アファディン欠損培養海馬神経細胞では、シナプス前性・後性にシナプス機能が低下していることを明らかにした(Toyoshima et al., 2014)。このように、アファディンはシナプス分子の集積、シナプスの形態形成と機能を制御する重要な分子であると考えられる。また、シナプス形成のシグナルにはアファディン依存性・非依存性の最低2種類のシグナルが存在することが示唆され、現在、人工シナプスの実験系を用いて、それぞれのシグナルに関与する接着分子の同定を試みている。アファディンの機能を解析することにより、少なくとも海馬の苔状線維-CA3錐体細胞シナプスの形成の分子機構の詳細が解明される可能性があると考えている。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度は、アファディン条件付き欠損マウス(Afadin f/f; nestin-Cre)の脳の海馬と、そのマウスから得た海馬神経細胞の分散培養から得た知見に基づき、人工シナプスによる細胞生物学的解析と、シナプス形成におけるアファディンの制御における分子機構を解析することを計画していた。これらの目標に関して、おおむね計画通りの研究の進展を得ることができた。人工シナプスの実験では候補となる細胞接着分子の前シナプスの形成における機能解析を中心に行い、アファディン依存性・非依存性のシグナルに関与する細胞接着分子の候補の絞り込みを行いつつある。アファディン結合タンパク質の同定に関しては、免疫沈降法によって得たサンプルを質量分析に供し、結合タンパク質の候補のリストを、平成24年度に得ている。25年度は、候補となる分子の2次スクリーニングを行い、シナプス後肥厚部に局在する分子Cnksr2について詳細に解析した。現在、生体内での機能を明らかにするため、ミュータントマウスの作成を行っており、今年度末にはそのマウスを使った実験が開始できると考えている。
平成26年度は、前年度に開始した研究を発展させるため、シナプス後膜の形成におけるアファディン依存性・非依存性のシグナルの機構の解析をおこなう。そのため、人工シナプスの実験を引き続き行う。さらに、前シナプス形成に関与するアファディン結合タンパク質の同定を行う。そのため、前年度の質量分析によって同定されたタンパク質に関して2次スクリーニングを引き続いて行う。その目的で、抗体の入手が必要となる。さらに前年度作成を開始したCnksr2ノックアウトマウスが得られれば、その解析を開始する。その間、アファディン依存性・非依存性のシグナルに関与する他の興味深い分子に関して、ノックダウンなどの手法を用いて、培養神経細胞においてそれらの分子の機能を明らかにする。これらの実験のために、培養関係の消耗品が必要となる。このような実験を通して、シナプス形成において機能的に興味深い分子が同定できた場合、ノックアウトマウスの作成も計画する。このように、本年度もアファディンの機能を分子レベルで明らかにすることに努める。
シナプス形成におけるアファディンの機能の解析を行う過程で、思いがけず、大脳皮質の層形成にアファディンが関与していることがわかり、こちらの解析も行ったため、シナプス形成の分子機構の解析に費やすエフォートの割合が低下し、その解析に必要な細胞培養消耗品、抗体や遺伝子の購入に予定していた予算が未使用となった。平成26年度は、動物関係としてアファディン条件付き欠損マウスラインとCreマウスライン(nestin-Cre, Emx1-Cre)の維持費用を計上している。また、平成24年度の質量分析の結果見出された分子の遺伝子、抗体の購入が必要である。さらに、神経細胞の培養に必要な消耗品や、ノックアウトマウスの遺伝子型の同定に必要なPCR酵素を計上している。その他、成果発表に必要な費用を計上している。
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PLoS One
巻: 9 ページ: e89763
10.1371/journal.pone.0089763