研究課題
基盤研究(C)
正常細胞や癌細胞の増殖に重要な役割を果しているCyclin-dependent kinase (Cdk)の制御機構として、Mitotic Exit Network (MEN)というシグナル伝達系が出芽酵母に存在する。申請者は哺乳類でも同経路が保存されていると仮定して、MEN構成分子Dbf2キナーゼの哺乳類ホモログLATS1の新規基質スクリーニングを行った。酵母ではDbf2キナーゼがCdc14ホスファターゼをリン酸化して制御することが知られているがLATS1の基質としてホスファターゼはこれまで報告されていなかった。申請者はLATS1がCdc14 Cdc14ホスファターゼのヒトホモログではなくProtein phosphatase 1C(PP1C)の制御サブユニットであるMYPT1 (myosin phosphatase-targeting subunit 1)をin vitroでリン酸化することを初めて見出した。さらに部分欠失変異体などを用いてMYPT1のリン酸化部位を5か所に絞り込んだ。この5か所のうちショウジョウバエまで高度に保存されているS(セリン)445に対するリン酸化抗体などを用いてMYPT1がin vivoでもリン酸化されていることを明らかにした。またこのLATS1によるリン酸化がMYPT1/PP1Cのホスファターゼ活性を増強させることをin vitroのホスファターゼアッセイで明らかにした。一方MYPT1が細胞分裂と癌悪性化に重要な役割を果たすPLK1(polo-like kinase)の活性化リン酸化部位(T(スレオニン)210)を脱リン酸化してその機能を抑制することが知られていた。申請者はLATS1がMYPT1を介してPLK1活性を抑制することを見出した。これらの結果からPLK1抑制作用が癌抑制タンパクLATS1の機能の一部を担うことが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
MYPT1部分変異体を用いたキナーゼアッセイによりLATS1によるリン酸化部位を5か所に絞り込み、ショウジョウバエなどのホモログにおいても高度に保存されているSer445に着目した。リン酸化Ser445抗体はイギリスDundee大学のAlessi博士が開発していたものの供与を受けることが出来たため、当初の予定以上に研究を進展させる事が出来た。
a) LATS1ノックアウトマウスにおける発癌でのMYPT1、PLK1の活性変化:LATS1ノックアウトマウスは軟部組織肉腫や卵巣腫瘍を形成することが報告されている。申請者らは独自にLATS1ノックアウトマウスを作製しており上述したリン酸化抗体などを用い、同マウスに生じた腫瘍と腫瘍周囲健常組織におけるMYPT1とPLK1の活性を比較検討する。b) LATS1欠失腫瘍におけるPLK1阻害剤の効果:Lats1-/- MEFと対照の野生型MEFをSV40 largeT抗原とH-RasV12D発現レトロウイルスベクターを用いて形質転換し、ヌードマウスの皮下に打ち込むことで腫瘍を形成させる系を樹立する。そこでPLK1阻害剤に対する感受性を比較検討することで、LATS1欠失がPLK1阻害剤使用の指標となり得るか検討する。c) MENシグナルのモデルメダカ作成:MENの役割が哺乳類だけではなく脊椎動物レベルまで広く保存されていることを明らかにすると共に、メダカの利点を活用することでMENシグナルの多細胞生物での役割解明を加速させたい。
物品費の内訳としては細胞培養試薬費、プラスチック器具費、蛋白精製用試薬費、抗体類免疫試薬費、実験動物飼育関連費などを予定しており計100万円を計上している。また京都大学石濱博士との細胞内リン酸化解析、基礎生物学研究所成瀬博士とのメダカモデル作成に関する打ち合わせのための国内旅費20万円を計上している。
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