研究課題
難治性血液疾患を対象として施行される造血幹細胞(HSC)移植は、抗がん剤や放射線治療に不応となった患者にとっては最後の治療手段であり、その成否は患者の予後を大きく左右するものである。したがって、より安全で有効な造血再生法の確立のためには、幹細胞の再生能力を最大限に引き出すことと同時に、再生反応にともなうストレスから保護することによって幹細胞機能の長期的な維持を達成する新たな治療戦略の確立が重要である。近年、造血促進因子としてtissue-type plasminogen activator (tPA)の役割が注目されている。申請者らは、放射線照射などにより造血回復を促進するtPAの発現が骨髄内で亢進することを確認した。ところが、その抑制因子であるplasminogen activator inhibitor type-1(PAI-1)の発現も同時に亢進するということを見いだした。造血再生におけるPAI-1の役割を明確にするために、PAI-1 KOマウスを用いた解析を行ったところ、PAI-1 KOマウスでは造血再生が亢進することが明らかになった。すなわち、PAI-1は造血再生を抑制していることが明確になった。そこで、PAI-1阻害剤を投与することによる造血再生における有効性について検討を行った。HSC移植と同時にPAI-1阻害剤を投与した結果、PAI-1阻害剤を投与することにより線溶系が活性化され、幹細胞増殖因子の産生が増強した。そして、ニッチ領域でのHSCの増幅が誘導され、造血系の再生反応が亢進した。このPAI-1阻害剤による効果はtPA KOマウスでは発揮されない事から、tPA主導の線溶系活性化により造血再生が進行することが示された。重要なことに、PAI-1阻害剤の投与により長期造血再生能も維持されていた。以上の結果から、幹細胞移植においてPAI-1活性を抑制することは、造血再生の効率化と幹細胞活性の維持の両方を達成する理想的な再生医療法となることが期待される。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
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