研究課題
従来から我々は低酸素によって細胞接着分子に大きな変化が誘導されることを見いだし、特に糖鎖性の細胞接着分子に焦点を合わせてその分子生物学的背景を調査解析してきた。低酸素によって誘導される細胞接着分子の主な機能は、1)細胞運動能・遊走能の亢進と、2)血管内皮への接着亢進の二つであるが、本研究では特に低酸素による細胞運動能・遊走能の亢進の分子機構を解明することを目的としている。昨年度の成績から、低酸素による運動能の亢進においては、特にCD44とその特異的リガンドであるヒアルロン酸糖鎖との結合を介した細胞接着に関与する分子が重要な役割を演じることが、shRNA導入実験によって明らかになっている。本年度は特にこのうちヒアルロン酸糖鎖の合成と分解を行う酵素の遺伝子について、その転写調節機構を解析した。ヒアルロン酸合成酵素およびヒアルロン酸分解酵素の遺伝子については、調節領域のシクエンスの解析から、5'調節域にそれぞれ複数のHIF-1α結合可能領域(putative HRE)が存在しており、調節領域をクローニングしてこれらの部位を欠失あるいは変異したコンストラクトを作成してレポーターアッセイを行ったところ、それぞれについて各一個の主要な低酸素反応エレメント、hypoxia responsive elementを同定することが出来た。両遺伝子とも、低酸素下培養によってHIF-1αが5'調節領域に結合することがChIPアッセイによって確認された。以上から、これらの遺伝子が低酸素によって転写誘導されることが確認された。ヒアルロン酸合成酵素および分解酵素はともにshRNA導入により細胞運動能が著明に阻害されることから、次年度はこれらの遺伝子誘導によってもたらされる細胞内シグナル伝達の変化について阻害剤などを用いて解析する予定である。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、昨年度の成績から低酸素による運動能の亢進において重要な働きをすると判明したヒアルロン酸糖鎖の合成と分解を行う酵素の遺伝子について、その転写調節機構を解析し、両方の遺伝子についてレポーターアッセイとChIPアッセイとを併用して、その転写誘導がたしかに低酸素誘導因子HIF-1αによるものであることを確認できた。予定通りの進行であるので順調に進展していると判定した。
本年度までに分子生物学・生化学的な基盤事項を明らかにすることが出来たので、次年度はこれら細胞接着糖鎖の低酸素による変化が細胞の運動機能におよぼす影響と、それに対する阻害剤の作用について解析する予定である。
本年度の研究試薬の支出において、細胞保存用の液体窒素の年度の終盤における補充ペースが、予測と現実との間でやや異なったために31,682円の差引額が生じた。次年度の使用計画は、これまでの計画では物品費673,000円、旅費350,000円、人件費・謝金227,000円、その他50,000円であったが、本年度に生じた差引額の31,682円は物品費に組み入れて、物品費の合計を704,682円として使用する予定である。
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