研究課題
本研究では、まず、幹細胞の分化環境を提供する細胞(ドナー細胞)を作製し、次に、ドナー細胞と三次元的に共培養を行った幹細胞(アクセプター細胞)の分化・形態の制御を試み、最終的にドナー細胞を除去しアクセプター細胞由来の高機能細胞凝集体を純化することを目標にしている。平成25年度は、アクセプター細胞として、霊長類ES細胞や胎生未分化癌細胞を採り上げて、単離・追跡用の加工を行い、細胞密度に依存した分化挙動の追跡や、平成24年度に遺伝子改変を進めたドナー細胞との共培養等による分化制御を行った。1.分化誘導後に蛍光を発するように、未分化なES細胞では機能抑制されるCMVプロモーターに蛍光タンパクGFPの遺伝子を連結したものを薬剤耐性遺伝子と共に霊長類ES細胞に導入し、これを各種の胎児から調製したドナー細胞と混合後、ペレット状態(細胞集合体)で培養を行った。その結果、マウス胎児の肺や小腸由来のドナーによってES細胞は蛍光を発すると共にドナーに由来する組織類似の形態を呈するようになった。2.他のアクセプター細胞として、分化誘導法が確立しているマウス胚性癌細胞P19CL6細胞を理研細胞バンクから入手し、薬剤耐性遺伝子とミオシンプロモーターにGFPを連結した遺伝子を導入し心筋分化に伴って蛍光を発する様加工した。これらの細胞は、ある種のドナー細胞(繊維芽細胞由来のもの)と直接接触させることにより劇的に分化が促進することがわかった。3.薬剤処理によってドナー細胞/アクセプター細胞共培養中でアクセプター細胞が選択的に生存することが確認されたものの、死滅し断片化したドナー細胞をアクセプター細胞から完全に取り除くことは困難であった。そこで、直接接触によりアクセプター細胞の分化を誘導するドナー細胞表面分子から分化誘導因子の候補タンパクを選択し、それを直接アクセプター細胞に導入する系を構築した。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度は、アクセプター細胞の調製とドナー細胞との3次元共培養による分化誘導を行い、分化したアクセプター細胞の選択回収の予備実験を計画していたが、以下の結果により計画は達成できたと考えられる。まず、1)アクセプター細胞として霊長類ES細胞とマウス胚性癌細胞P19CL6を採り上げ、これに薬剤耐性遺伝子を発現させ、さらに、分化に伴って蛍光を発するよう加工したものが調製できた(それぞれをアクセプター細胞AおよびBと呼ぶ)。次に、2)アクセプター細胞A(霊長類ES細胞)とマウス胎児の各種組織から摘出したドナー細胞を混合し、細胞ペレットとして気層/液相境界面でインキュベートする3次元共培養系で、アクセプター細胞Aの形態・機能分化の大まかな調節が可能になった。さらに、3)アクセプター細胞B(胚性癌細胞P19CL6)とドナー細胞(様々な遺伝子加工し異なる分化誘導環境を提供できるようにした各種の株細胞:平成24年度に調製)を共培養することで、アクセプターB細胞の顕著な分化促進を行えるものが見つかった。ただし、一方で、分化誘導後の薬剤処理でドナー細胞は死滅するものの、分化したアクセプター細胞集合体からドナー由来の死細胞断片を完全に取り除くことが困難であることが分かった。そこで、アクセプター細胞に直接接触することで分化を加速するドナー細胞に着目し、その細胞表面分子からアクセプター細胞の分化促進機能を担う分子を選び出した。その中には、我々が当初から注目していたエピモルフィンやそのファミリー分子が含まれることが判明したので、現在、それらの分子を直接アクセプター細胞の表面に発現させることでアクセプター細胞間の接触で分化誘導を促す系を構築中である。
今後は、各種の遺伝子操作を行ったドナー細胞が提供する微小環境の構成とその効果についてさらに詳しく解析し、アクセプター細胞のより高効率での分化誘導(目的細胞調製)を試みる。また、ドナー/アクセプター細胞の3次元共培養系で、薬剤処理で死滅させたドナー細胞の断片除去が困難であることが判明したため、3次元の細胞集合体を薬剤処理後に酵素処理で個々の細胞にまで単離し、目的の分化細胞のみを選別後に再集合させることを検討する。さらに、各ドナー細胞の分化誘導能解析により分化誘導を担う候補因子を選出し、アクセプター細胞に直接その情報が伝わるようにアクセプター細胞表面に直接発現させる方法も並行して検討する。この直接発現に際しては、テトラサイクリンやドキシサイクリンなどで発現誘導を自由に調節できる系を用いる、あるいは、アデノウイルスを用いて全細胞に対し一過性の刺激を行うことも計画している。また、目的細胞に高精度で分化誘導したものを機能集合体としてモデル動物に移植し、それが移植後にどのように生命活動に参加するのかについて、発現している蛍光の追跡を最大限利用して解析する。
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