研究課題/領域番号 |
24590367
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
平林 哲也 公益財団法人東京都医学総合研究所, 生体分子先端研究分野, 主席研究員 (90345025)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 脂質代謝 / グリセロホスホコリン / リゾホスホリパーゼ / 褐色化 / コリン |
研究概要 |
全身性iPLA2θ欠損マウスはメンデルの法則に従って誕生したが、通常の固形飼料で飼育すると、離乳時から体重増加が停止して生後4週までに全個体が死亡した。水分含有量の高いゲル状飼料で飼育すると延命効果が見られたが、摂食量の減少は見られないのにも関わらず、離乳後の体重増加が緩慢で、白色脂肪組織の萎縮を伴う成長遅延が観察された。さらに6週齢を過ぎると歩行異常、背骨の湾曲、眼瞼下垂、毛並みが悪いなどの所見を示し、生後10週までにほとんどの個体が死亡した。 欠損マウスは低血糖と低体温を示し、インスリン、IGF-1、甲状腺ホルモン、レプチン、アディポネクチンの血中濃度が低下しており、超低比重リポ蛋白(VLDL)中のトリグリセリドとコレステロールの含量も著しく低下していた。iPLA2θはリゾホスファチジルコリンをグリセロホスホコリン(GPC)と脂肪酸に加水分解する活性を示し、主要組織中のGPC含量を定量すると、肝臓で著しく減少しており、腎臓や骨格筋でも25%程度の減少が見られた。したがって、iPLA2θは肝臓の内在性GPC産生経路で中心的な役割を果たすリゾホスホリパーゼであること、また本経路の欠損が重篤な表現型を導くことが明らかとなった。 肝臓と内臓脂肪の遺伝子発現解析を行った結果、肝臓では脂肪酸合成経路の代謝酵素群の発現量が大きく減少しており、トリグリセリドをVLDLに転移するMTPの発現量も低下していた。一方、脂肪細胞分化や脂肪合成のマーカーの発現低下は認められず、熱産生に特徴的な脱共役蛋白質Ucp1やCideaの発現上昇が見られた。このことから、iPLA2θ欠損マウスでは、肝臓における脂肪酸合成の低下とトリグリセリドの排出能の低下、および白色脂肪細胞の褐色脂肪細胞様形質への転換(browning、褐色化)により、全身の中性脂質が失われて白色脂肪細胞の萎縮が起こると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子改変マウスの表現型解析が肝臓、白色脂肪細胞、血液を中心として予定通り進んでおり、メタボロミクス解析よりiPLA2θが肝臓における主要GPC産生酵素であることを明らかにし、さらに脂肪組織における中性脂肪の喪失のメカニズムの一端も明らかにできたことなど、大きな進展が見られた。また、組織特異的な欠損マウスの作製も予定通り進行している。
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今後の研究の推進方策 |
1)肝臓、白色脂肪組織などの組織特異的な欠損マウスの表現型解析、生化学的解析、遺伝子やタンパク質の発現解析、メタボローム解析を行い、全身性欠損マウスのデータと比較する。 2)肝実質細胞、白色脂肪組織由来の脂肪前駆細胞、骨格筋細胞などの初代培養系を用いて、リン脂質代謝とコリン代謝を中心に質量分析による網羅的解析を行う。 3)安定同位体や蛍光プローブを用いて、ホスファチジルコリンを中心としたリン脂質およびその代謝物の細胞内動態や代謝経路の解析を行う。 4)iPLA2θの発現調節と活性制御のメカニズムを明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
安定同位体の合成委託が5月下旬までかかること、抗体作製委託に5~6ヶ月程度要すること、海外での学会発表予定を次年度に変更したこと、などから次年度に使用する予定の研究費が生じた。翌年度以降に請求する研究費と合わせた使用計画については、上記の4つに加えて、新たな遺伝子改変マウスの導入、マウス用特殊飼料、オリゴヌクレオチドの合成、細胞培養用のディッシュや培地などに使用予定である。
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