研究課題
昨年度までに、HuRによるARF mRNAの翻訳制御について、主に培養細胞を用いて解析を行った。当該年度は、HuRコンディショナルノックアウト(KO)マウスと脂肪組織特異的CRE発現マウスを交配することによって作製した脂肪組織特異的HuR-KOマウスの解析を行った。野生型マウスでは通常約12ヶ月齢程度で脂肪組織において細胞老化が観察され、また同時にインスリン感受性の低下が起きる。HuRをKOした脂肪組織では、6ヶ月からARFの発現上昇とともに細胞老化の亢進が認められた。さらにこのマウスを用いてインスリンテストを行ったところ、加齢に伴って生じるインスリン感受性の低下が6ヶ月齢の時点から観察された。従ってHuRは生体内においても細胞老化を防ぐ役割を持ち、特に脂肪組織では細胞老化を介して生体のインスリン感受性調節に関わることが示唆された。また、当該年度はHuRと細胞老化表現型に関して、特に分泌表現型との関わりについても解析を行った。老化した細胞は、様々な生理活性物質を分泌することが知られている。この現象はSASP(senescence-associated secretory phenotype)と呼ばれる。細胞老化に伴う細胞周期の停止には、p53が重要であるが、SASPの発現はp53とは独立した経路を介し、特にNF-kBが不可欠であることがこれまでの報告により明らかになっている。HuRをノックダウンした細胞では細胞周期停止とともにSASPに似た表現型が惹起されることを我々は見出した。この現象はARF/p53非存在下においても同様に観察されるが、NF-kBを薬剤で阻害した時には見られなくなった。このことから、HuRはARFを介して細胞の分裂寿命を制御するだけでなく、NF-kBを介した分泌表現型にも影響を与え、複合的な細胞老化表現型を調節する因子であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当該年度は予定してことをほぼ達成することができた。理由としては、昨年から引き続き海外との共同研究がスムーズに進み、さらに昨年度から行っていた実験動物の繁殖により、解析に十分な数の個体が確保できたことが大きい。また当該年度は、本研究成果を一部論文として発表することができた。
最終年度はHuRと細胞老化分泌表現型について詳細な解析を行い、成果を論文としてまとめ、発表する。
当該年度、本研究計画から得られた結果を国際誌に発表することができた。掲載費を準備していたが、発表論文が巻頭で特集されることになったため、掲載費が免除された。そのために掲載費として準備していた分の研究費を翌年度に繰り越すことになった。また本研究計画から得られた結果をもとに別の論文を作製していたが、当該年度内に受理されなかったため、この分の掲載費を処理することができなかった。繰り越した研究費は、論文発表のために必要な校正や掲載費として使用する。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
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