研究課題/領域番号 |
24590371
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
森口 尚 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (10447253)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | GATA転写因子 / 腎集合管 |
研究概要 |
1. 腎尿細管細胞特異的GATA2欠失マウスに観察される尿濃縮機能障害の病態生理を解明するために、腎臓での水トランスポーターAqp2の発現レベルの変化を、定量RT-PCR、ウェスタンブロッティング、免疫組織染色による多角的な解析方法により検討した。その過程で、バゾプレッシン受容体Avpr2遺伝子の発現レベル低下を新たに発見し、転写因子GATA2が水トランスポーターの発現レベル維持とバゾプレッシン受容体シグナル経路の活性維持を介して、腎臓での体液バランス調節に包括的に貢献している可能性が明らかになった。 2. 腎障害のモデルである片側尿管結紮からの回復期に、一過性に尿量が増加する現象が観られる。このとき腎臓において一過性にGATA2および水トランスポーター遺伝子の発現レベルが低下することがわかった。これらの結果は腎炎等に伴う続発性尿崩症において、GATA2の発現レベル低下がその病態形成の一端を担っている可能性を示唆する。 3. ビオチン化タグつきGATA2を安定導入した腎尿細管細胞株mIMCD細胞を樹立した。本細胞株を用いてクロマチンプルダウン実験を行い、GATA2がAqp2遺伝子プロモーター上のGATA配列に直接結合することを証明した。 4. GATA2を欠失する尿細管細胞の発現アレー解析を行った結果、マクロファージ遊走能を有するサイトカインや、補体因子の遺伝子発現低下が観察された。それと関連し、腎尿細管細胞特異的GATA2欠失マウスでは、腎虚血再還流刺激などにより誘導される腎組織障害の重症度が、野生型マウスと比較して軽微となる傾向があることがわかった。 5. 腎尿路系初期発生において、膀胱尿管接合部周囲でのGATA2の発現が正常な膀胱尿管接合部の発生と、水腎症の発症予防に重要であることを明らかにした。この結果はMol Cell Biol誌に掲載された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
腎尿路系初期発生におけるGATA2の発現が、正常な膀胱尿管接合部の発生と、水腎症の発症予防に重要であることを明らかにし、この結果がMol Cell Biol誌に掲載され、一定の成果を得た。また、この報告を見た海外の臨床グループから、GATA2遺伝子変異による遺伝性血液疾患の家系において、高頻度に尿路奇形が合併するという連絡を受け、このグループとの共同研究に発展しつつある。 腎尿細管細胞特異的GATA2欠失マウスの解析から、GATA2がバゾプレッシン受容体Avpr2遺伝子および、その下流で機能する水トランスポーターAqp2遺伝子の発現レベル維持を介して、体液バランス維持に包括的に貢献することに関して充分なデータが蓄積されたので、現在論文投稿を準備中である。 また、尿細管細胞においてGATA2は、腎虚血再還流刺激による腎組織障害を積極的に助長するという、予想外の機能を有することも解ってきた。この現象は、GATA2により発現誘導されるサイトカインにより、炎症細胞が腎内にリクルートされ、腎組織障害を亢進させることによると予想している。以上の結果から、GATA2が腎集合管機能維持に貢献する役割をもつ一方で、腎臓での炎症を助長するという側面も明らかになりつつあり、当初の計画以上の知見が得られていると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
1. 尿細管細胞では、GATA2とGATA3が発現している。腎尿細管細胞特異的GATA2欠失マウスでは、GATA3の発現レベルが増加しており、GATA2の機能をGATA3が代償している可能性が示唆される。この可能性を検証するために、腎尿細管細胞特異的GATA3欠失マウスや、GATA2とGATA3両方の発現が低下したマウスの解析を進める。2. 尿細管細胞でGATA3を過剰発現するトランスジェニックマウスを作成樹立した。このマウスの尿細管細胞において、GATA転写因子機能亢進により、その標的遺伝子であるAqp2遺伝子や、Avpr2遺伝子の発現亢進がみられるか検討する。3. これらの現象が確認された場合、GATA3過剰発現マウスではバゾプレッシン投与に反応した尿量抑制が過剰にみられるか検討する。4. GATA2欠失マウスに観られる尿量増加が、このGATA3過剰発現マウスによりレスキューされるか検討する。5. 前年度の解析から、GATA2が腎内への炎症細胞の積極的なリクルートを介して、腎虚血再還流による腎組織障害を助長する可能性が示された。本結果をさらに深く理解するために、GATA2欠失マウスを用いた片側尿細管結紮やアドリアマイシン等による薬剤誘導性腎症においても、野生型マウスと比較した際に症状軽減が得られるか検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
1. 尿細管特異的GATA2欠失マウスを得るために、Cre組み換え酵素発現を誘導するためのドキシサイクリンを継続して準備する必要がある。また継続的にマウス飼育費が必要である。2. 尿細管特異的GATA2欠失マウスでのAvpr2遺伝子の発現低下をタンパク質レベルで評価するためのAvpr2抗体が必要である。3. GATA2によるAvpr2遺伝子やAqp2遺伝子の発現制御機構を解析するために、これら遺伝子を内在性に高発現する腎集合管の性質を反映した細胞株を複数種類準備する必要がある。4. 本年度内に2報の論文投稿を予定しており、それらの英文校正料、投稿料が必要である。次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成25年度請求額とあわせ、平成25年度の研究遂行に使用する予定である。
|