研究課題
1, 腎臓の尿細管細胞特異的なGATA2欠失マウスは、尿濃縮機能障害を示し多量の低張尿を排泄する。この症状は腎集合管での水チャネルであるAqp2遺伝子、Aqp3遺伝子やバゾプレッシン受容体のAvpr2遺伝子の発現低下を伴っており、腎性尿崩症の動物モデルになることを見いだした。2, 腎臓の集合管においては、GATA2とGATA3が重複して発現しているが、このような尿濃縮に関わる遺伝子群の発現変化と尿濃縮障害は、GATA3変異マウスでは認められず、GATA2変異マウスでのみ観察された。3, mRNA発現の絶対量に関して、腎臓集合管ではGATA2の方がGATA3よりも多く、腎臓集合管においてはGATA3よりもGATA2の方が、より重要な機能を有すると考えられた。4, GATA2変異マウスは腎虚血再還流刺激により誘導される腎組織障害が軽微であることを見いだした。腎臓集合管を用いた発現アレイ解析の結果、GATA2欠損腎集合管細胞では炎症細胞を遊走するサイトカインや補体因子の遺伝子発現低下が観察された。GATA2はこれら炎症を誘導するサイトカイン遺伝子群を包括的に活性化制御することで、炎症の惹起に積極的に関わっている可能性が示唆された。5, 発現アレイ解析の結果から見いだされた、GATA2の制御下にあるサイトカイン遺伝子群の中には、感染防御機能を有するものも散見された。この結果から、腎尿細管でのGATA2欠損により、腎臓の感染防御機構に破綻をきたし、感染症に対して脆弱になる可能性が示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
腎臓での尿濃縮過程におけるGATA2の機能を明らかにし、論文報告することにより一定の成果をあげることができたと考えている。また、GATA2が腎虚血再還流刺激後の腎組織障害を増悪させる内在性因子として機能するという発見は、予想外の結果であり大変興味深い。この結果は、GATA2阻害薬を用いることで急性腎不全後の腎障害を軽減させることができる可能性を示唆する。また、一方でGATA2が感染防御に関わるサイトカイン群の発現制御に関わるという結果は、非常に重要であると考えている。近年、GATA2遺伝子の変異がヒトの原発性免疫不全症の原因になることが明らかとなってきた。マウス個体を用いたわれわれの結果は、GATA2遺伝子変異により腎集合管細胞を含む様々なさいぼうからの感染防御に関わるサイトカイン群の産生が低下することで、免疫不全症が引き起こされる可能性を示唆する。
GATA2が炎症細胞をリクルートするサイトカインや補体因子の遺伝子発現を活性化制御することにより、腎虚血再還流刺激後の腎組織障害を増悪させる内在性因子として機能する現象を詳細に検討する。GATA2の制御下にある標的遺伝子群の、遺伝子発現制御領域に存在するGATA結合サイトへのGATA2の直接結合を確認する。また、GATA2変異マウスで、感染防御機能を有するサイトカイン遺伝子群が発現低下した際に、実際に非定型抗酸菌症などの感染症に対して脆弱性を示すかどうかを、感染実験を行うことで明らかにする。
学会や研究打ち合わせのための出張回数が、当初の計画よりも少ない回数で済んだため。次年度には、必要な海外学会への出張、および予定している複数の論文の出版費用のために平成26年度分と合わせて使用する。
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すべて 雑誌論文 (13件) (うち査読あり 13件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (4件)
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