研究課題
基盤研究(C)
p53の標的遺伝子であるストレス応答遺伝子ATF3の「がん抑制」と「がん化」の個体レベルの機能解明を目的に以下の研究を行った。個体レベルでの解析:Atf3CreマウスとEIICreマウスとの交配によりAtf3ノックアウトマウスを作製し、引き続き、p53欠損マウスとの交配でp53/Atf3ダブルノックアウトマウスを作製した。このマウスは、p53単独KOよりも早期にかつ強い発がん性(胸腺、肉腫、唾液腺腫など)を示した(2011年分子生物学会発表)。ATF3発がん複合体、がん抑制複合体の解析:ATF3を恒常的に高発現するHodgkinリンパ腫ではATF3は「がん促進ATF3」として働くが、ヒト大腸がん細胞のDNA傷害抗がん剤によって誘導されるATF3は細胞死誘導に関わり「がん抑制」として働く。我々は、免疫沈降、ペプチドリリースに優れたモノクローナル抗体を作成し、両者のATF3複合体の質量分析解析を行ったところ、興味深いことにp53結合因子が共通に含まれていた (PLoS ONE 2011)。ATF3の新規標的遺伝子DR5の同定と抗がん治療への関わり:ヒト大腸がん治療薬カンプトテシン(CPT)作用時におけるATF3の新たな標的遺伝子としてDeath receptor DR5を同定した(Oncogene 2012)。p53の下流で標的遺伝子ATF3が誘導され、p53はDR5遺伝子イントロン部位にATF3は近位プロモーターの部位に結合したが、両者は同じプロモーター上でタンパク・タンパク結合をすることで、協調的なCo-regulatory転写因子として働いていることを示した。この協調作用は、新たな抗がん治療の戦略として注目されている「DNA傷害治療薬とTRAILアゴニストとの併用療法」の分子機構を説明するものとして意義深いものと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
個体レベルでの解析:ATF3単独欠損マウスの自然がん発症は、野生型と同じであり、ATF3はそれ単独ではがん抑制遺伝子ではないことが明らかとなった。しかしながら、p53とのダブルノックアウトマウスは、p53単独欠損マウスよりも早期に複数の組織でがんを発症することを見出した。これらのことから、ATF3はp53と協調的に働くがん抑制遺伝子であることが示唆された。その詳細なメカニズムの解明はこれからの課題である。ATF3発がん複合体、がん抑制複合体の解析:特異的な免疫沈降と競合ペプチドによるリリースの点で優れたモノクローナル抗体を用いて、発がん(ホジキンがん)とがん抑制(大腸がん抗がん剤刺激)との異なったコンテクストにおけるATF3複合体を同定した。複合体の構成タンパクは両者で大きく異なったが、両方に共通に含まれているp53結合タンパク(p53BP1)を見出しその生物機能に注目している。ATF3の新規標的遺伝子DR5の同定と抗がん治療への関わり:抗ATF3抗体を用いた網羅的ChIP-chip解析によってATF3の新規結合標的遺伝子としてDeath receptor DR5を同定した。この結果に基づき、ATF3がDNA傷害誘導抗がん剤CPTによるDR5誘導時の重要な制御因子であることを見出した。成果として、ATF3がp53の標的遺伝子としてCPTによって転写誘導されることに加え、タンパクレベルでもATF3とp53は相互結合しDR5プロモーター上で協調して働きその転写を強く誘導することを明らかにした。p53-ATF3の制御には、p53-ATF3間の正負の転写抑制に加え、ATF3-p53のタンパク相互作用によるp53安定性促進と転写促進など多次元に及ぶ制御モデルを示したものと言える。
個体レベルでの解析:ATF3/p53ダブルノックアウトマウスの自然がん発症の統計的な差を明らかにするために交配と飼育を継続する。P53単独欠損、p53/ATF3ダブルノックアウトがん組織の組織学的解析、ATF3免疫染色などとともに、網羅的遺伝子発現解析を行いプロフィールの違いを解析する。ATF3発がん複合体、がん抑制複合体の解析:発がんと細胞抑制に共通するATF3複合体蛋白質であるp53結合タンパク(p53BP1)の生物機能を知るために、まずは細胞レベルでのノックダウンによる機能変化を調べる。さらに、p53BP1ノックアウトマウスとのダブルノックアウトも考慮する。ATF3の新規標的遺伝子DR5の同定と抗がん治療への関わり:がん治療法としてTRAILやTRAILアゴニスト/DR5誘導剤併用療法が注目されている。今回、ATF3がp53と協調してDeath Receptor DR5の正の誘導に関わることから、p53依存性抗がん治療を制御する可能性が示唆される。今後、がん細胞のマウスXenograft実験を用いて、in vivoレベルでのTRAILがん治療の有用性をマウスモデルで明らかにする。一方、悪性度の高いがんにおいてはp53変異例が多いことが知られているが、ATF3は、p53非依存性の酸化ストレスや小胞体ストレスでも誘導されることは知られている。我々の予備実験において複数の自然化合物がATF3依存性にDR5を誘導することを見出した。今後、これらの自然化合物によるDR5誘導においてもATF3が関わるのかを解析する。を見る。そのメカニズムを明らかにするとともに、p53変異を持つ難治がん治療におけるATF3の機能解析も進める。
一般的な分子生物学試薬、細胞培養試薬に加えて、以下の使途に経費を使う。個体レベルでの解析:ATF3、p53遺伝子改変マウスの交配と飼育経費、Genotype決定のPCR試薬、がん組織の網羅的解析のための発現アレイ、RNAラべリング試薬など。ATF3発がん複合体、がん抑制複合体の解析:p53BP1ノックダウン試薬(siオリゴ、shRNA発現ベクター)。p53BP1遺伝子改変マウス購入と交配、飼育。ATF3の新規標的遺伝子DR5の同定と抗がん治療への関わり:Xenograft実験に用いるヌードマウス購入経費。Soluble TRAILあるいはDR5アゴニスト抗体。これらを用いてXenograftを用いたTRAIL-basedのがん細胞増殖抑制と転移抑制解析を行う。
すべて 2012 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (5件) 備考 (2件)
Cell Reports
巻: 2(5) ページ: 1129-1136
doi: 10.1016/j.celrep.2012.09.031. Epub 2012 Nov 1.
Oncogene
巻: 31(13) ページ: 1723-1732
doi: 10.1038/onc.2011.353. Epub 2011 Aug 15.
巻: 31(17) ページ: 2210-2221.
doi: 10.1038/onc.2011.397. Epub 2011 Sep 19.
http://www.tmd.ac.jp/mri/bgen/research.html
http://www.tmd.ac.jp/mri/bgen/puclications.html