研究課題
p53の標的遺伝子ストレス応答遺伝子ATF3の「がん抑制」と「がん化」の個体レベルの機能解明を課題とし今年度は以下の研究を行った。1)個体レベルでの解析:前年度までにAtf3ノックアウトマウスの作製、p53欠損マウスとの交配によるp53/Atf3ホモ、ヘテロノックアウトマウスを作製し、p53/atf3 double KOは、p53単独KOよりも早期に、かつ強い発がん性(胸腺、肉腫、唾液腺腫など)を発症すること、メス胎児は早期に胎内致死の形質を示したことまで確認した。その後、マウス飼育室のコンタミにより実験の中断が余儀なくされたが、平成25年度期間をかけて回復した。2)ATF3の新規標的遺伝子DR5の抗がん治療への関わり:ヒト大腸がん治療薬であるカンプトテシン(CPT)作用時におけるATF3の新たな標的遺伝子Death receptor DR5を同定しp53-ATF3の協調的Co-regulatory制御によってCPTがDR5を誘導することを報告した。その結果、「DNA傷害治療薬とTRAILアゴニストとの併用療法」の分子機構を説明した。本年度は、p53の変異を伴う悪性度の高いヒト大腸がん治療へのATF3によるDR5転写誘導の関わりを解析した。その結果、新規がん治療薬として注目されているヒストン脱アセチル化酵素阻害剤は、がん細胞の小胞体ストレスを惹起しATF4-CHOP-ATF3経路を介してDR5の誘導に関わることを見出した。HDAC阻害剤とDR5アゴニスト抗体とを共存させると強力で選択的な細胞死が誘導された。3)ヒト大腸がんにおけるWnt Canonicalシグナルの直接的標的遺伝子ATF3の同定:HCT116細胞は大腸がんのstem細胞レベルでの由来とされ癌化や転移などはWntシグナルの異常と関わることが知られている。我々はHCT116細胞の網羅的トランスクリプトーム解析からWntの下流でATF3が誘導されること、ATF3プロモーターにb-cateninが結合することを見出した。個体レベルでの生物機能解析が必要である。
2: おおむね順調に進展している
1)個体レベルでの解析:前年度までにATF3単独欠損マウスの自然がん発症は、野生型と同じであったことから、ATF3遺伝子はそれ単独ではがん抑制遺伝子ではないこと、p53とATF3とのダブルノックアウトマウスは、p53単独欠損マウスよりも早期に複数の曾雌家でがんを発症することから、ATF3はp53と協調的に働くがん抑制遺伝子であることを見出していた。そのメカニズム解析を進めるべきであったが、本年度はマウス飼育室の問題で個体レベルの解析が滞った。2)ATF3による標的遺伝子DR5制御と難治がん治療への関わり:抗ATF3抗体を用いた網羅的ChIP-chip解析により、ATF3の新規結合標的遺伝子としてDeath receptor DR5を同定した。DR5はTRAILによりがん選択的細胞死を誘導できることから抗がん剤として有望視されている。前年度では、大腸がん治療薬として臨床で用いられているCPTがp53野生型ヒト大腸がんにおいて、p53とともにATF3を誘導し、DR5遺伝子クロマチン上で効果的な協調作用を有することを見出していた。本年度は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤や自然物質が、p53変異を伴うヒト大腸がんにおいて、活性酸素を介した小胞体ストレスを惹起しDR5を誘導することを見出した。ATF3の本経路の役割を明らかにした。ATF3はp53依存性、非依存性の両経路でDR5転写誘導に重要な働きをすることでがん治療に深く関わる遺伝子であることを見出した。達成度として高い成果である。3)ヒト大腸がんにおけるWnt Canonicalシグナルの直接的標的遺伝子ATF3の同定:概要に記載した通り、ATF3はb-catenin/TCF結合性のWnt下流遺伝子であることを示した。国立がんセンターの関根博士作成のb-catenin野生型、変異型HCT116細胞、さらにはAPC/b-catenin変異を有する数種のヒト大腸がん細胞でも同様であった。ATF3はin vitroの細胞レベルで転移を抑制する機能を有していた。
1)個体レベルでの解析:滞ったATF3/p53ダブルノックアウトマウスの自然がん発症の統計的な解析を完成させる。p53単独、p53/ATF3ダブルノックアウトがん組織の組織学的解析、ATF3免疫染色による病理解析、網羅的遺伝子発現解析によるゲノム発現プロフィールを解析する。2)ATF3の抗がん治療への関わり:ATF3がTRAILやTRAILアゴニスト/DR5誘導剤併用療法による抗がん治療に関わることが示された。ATF3がp53野生型、変異型がんにおいて、それぞれDNA傷害ストレス、酸化・小胞体ストレスを介してp53, CHOPのパートナーを換えてDR5転写の正の協調誘導に関わるという細胞レベルのデータから、難治がん治療に関わることを個体レベルで証明したい。また、DR5アゴニストモノクローナル抗体がHDAC阻害剤や自然物質との併用でヒト大腸がん培養細胞を強力かつ選択的に細胞死誘導することを見出したので、がん細胞のマウスXenograft実験を用いて、in vivoレベルでの有用性を明らかにする。3)ヒト大腸がんにおけるWnt-ATF3経路の機能解析:HCT116(b-cat野生型vs変異型)の遺伝子発現プロフィール網羅的解析を行いWnt-ATF3の標的遺伝子を同定しがん病態に関わる遺伝子候補を見出す。
実験マウス飼育室のコンタミにより、当初予定していた遺伝子改変マウス個体レベルの実験の一部を中止せざるを得ず、経費の使用を中断した。マウス飼育室の問題は解決し、p53/Atf3の遺伝子改変マウスの交配と飼育は順調に進みだしているので、最終年度の平成26年度において遅れていた研究を進め経費を執行する。
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