研究課題
基盤研究(C)
細胞膜のTLR蛋白群および細胞質のNLRファミリー蛋白群は、外来の微生物のセンサーとして働いている。申請者らは、自ら発見したNLR蛋白の一種PYNODが炎症抑制性の活性を持つことを見出した。さらに胃がんマウスモデルの病変部でPYNODの発現が著明に上昇していることを発見した。これらの結果から炎症-発がんのプロセスにおいてPYNODの発現が上昇し抗炎症作用の一端を担っているのではないかと推測される。そこで今年度は、まず胃がんマウスモデルの病変部におけるPYNODの発現部位(組織、細胞)を同定するために、免疫組織染色を行った。しかし我々が作製したモノクロ-ナル抗体は、ウエスタンブロッティングと異なり、免疫染色において特異性に問題があることが判明した。そこで、実験計画を一部変更し、免疫組織染色を指標とし、再度マウスPYNODに対するモノクローナル抗体の作製を行っている。また硫酸デキストランを経口投与し、大腸に炎症を誘導するマウスモデルについて検討したところ、野性型マウスの炎症局所におけるPYNODの発現上昇は認められなかった。また投与後におこる体重減少についてもPYNOD欠損マウスと野性型マウスとの間に著明な差は見られなかった。さらに、ヒト胃がん患者のサンプルについてヒトPYNODの発現を定量PCRで検討したところ、papillary型(papillary type adenocarcinoma)の組織型を含む胃がんについては、約50%の症例でPYNODの発現が、正常部位に比べ腫瘍部位で著明に上昇していることが認められた。ヒト胃がんについても、特異的な組織型についてはPYNODの発現が増加している可能性がある。また大腸がん患者のサンプルについても同様に検討したところ、低頻度であるが、やはり腫瘍部位でPYNODの発現が高い症例が認められた。
3: やや遅れている
我々はマウスPYNODに対するモノクローナル抗体を樹立しており、ウェスタンブロッティングなどでは特異性を確認していたが、今年度、PYNOD欠損マウスをコントロールに用いて免疫組織染色を行ったところ、染色の特異性に問題があることが判明した。我々は、胃がんのマウスモデルにおいてPYNOD蛋白の発現が著明に上昇していることを発見したが、PYNODの発現増強がいったいどの細胞でおこっているか今のところ不明であり、明らかにすべき重要な問題のひとつである。そこで計画を一部変更し、免疫組織染色に用いることができる抗PYNODモノクローナル抗体の樹立を再度開始したため、当初の実験計画の進捗に影響を与えてしまった。一方、ヒトの胃がんのサンプルについては定量PCRによりPYNODの発現が腫瘍部位で高い症例があることが判明し、特定の組織型 (papillary adenocarcinoma) を含む傾向があるという興味深い結果を得ることができた。
新しい抗PYNODモノクローナル抗体の樹立を最優先し、免疫組織染色によるPYNODの発現検討が可能となるようにする。現在までのところ、胃におけるプロスタグランディンE2産生増強マウスモデル以外での炎症局所におけるPYNODの発現増強は認められていないが、さらにその他複数のマウス炎症モデルにおけるPYNOD発現変化を検討する。PYNODの発現制御に関して分子レベルでの解析を行うためにPYNODの発現をモニターするインジケータープラスミドの作製を急ぐ。ヒトの疾患サンプルについては、胃がんとともに大腸がんのサンプルについてもPYNODの発現が腫瘍部位で高い症例が認められる。そこで何らかの共通性を見い出すために症例数をさらに増やして検討を加える。またヒト疾患サンプルについても、ウエスタンブロッティングや免疫組織染色によるPYNOD発現の検討を行う。
未使用の研究費が発生し次年度に使用する予定であるが、次年度に計画している研究費の使用に加えて、今年度未使用の研究費を使用し、以下の物品の購入を予定している。PYNODに対するモノクローナル抗体を新たに作製するため、ラット、ハイブリドーマ作製用のサイトカインや細胞用培地などを購入する。今年度作製予定であったPYNODの遺伝子発現をモニターするインジケータープラスミド構築のために、BACクローンや各種プライマー、PCR試薬および遺伝子組み換え操作のための試薬を購入する。さらに今年度はPYNODのモノクローナル抗体の特異性の問題から、胃がんマウスモデルにおいて免疫組織染色によるPYNODの発現細胞や組織の同定ができなかった。当初の計画ではPYNODの発現部位を限定するため、胃粘膜や炎症浸潤細胞などの特定の組織や細胞を区別するための染色用抗体を購入する予定であったが。これらの抗体に関しても未購入であるため、次年度に購入する予定である。
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