研究課題/領域番号 |
24590377
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
岸田 聡 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20402563)
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研究分担者 |
門松 健治 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80204519)
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キーワード | 神経芽腫 / 自然退縮 / トランスジェニックマウス |
研究概要 |
本研究では、小児の難治性固形腫瘍である神経芽腫の動物モデルMYCN Tgマウスに基づき、神経芽腫の発生と自然退縮を制御する遺伝子を同定する。当研究室では、これまでにMYCN Tgマウスにおける神経芽腫の発生や自然退縮を捉えるためにいくつかの網羅的解析を行い、そのデータを集積している。本研究は、そのデータ群の中から、いくつかの基準によるスクリーニングを行って新規の重要遺伝子を同定することを目的とする。前年までに、一つのスクリーニング基準から3つの遺伝子を導入し、in situ hybridization (ISH)やリアルタイムPCRを行った結果、その中の一つが想定していた興味深い発現パターンを示すことを見出した。今回、その発現パターンの再現性を検証し、発現の大小により、発がん前のマウスを2群に分類できることを確認した。 新たに、前述の遺伝子を同定したのと同じ基準から、別の遺伝子を同定した。この遺伝子は、正常な組織では全く発現しておらず、がん化に伴って強く発現が誘導されていた。臨床のデータベースでの解析から、この遺伝子は予後不良因子であることはもちろん、その発現量が、我々が以前から神経芽腫に関わる増殖因子として解析しているMidkineと強く正に相関していることを明らかにした。また、この遺伝子については、これまでに神経芽腫への関与を示す報告はなされていないが、細胞の分化や初期化に伴って発現がダイナミックに変化すること、及びその変化が、分化や初期化の「結果」ではなく「原因」であることが示唆されている。複数の神経芽腫細胞株において、Midkineをノックダウンするとこの遺伝子の発現も低下し、同時に細胞の生存・増殖が著しく阻害された。この遺伝子に関しては、神経芽腫の発生への関与、そしてMidkineの標的遺伝子としての可能性を想定して、今後の解析を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、神経芽腫の「発生」と「自然退縮」に関わる遺伝子の同定を目的としており、前年度に後者に関わる候補遺伝子として3種類を同定した。解析の結果、そのうちの一つが想定と一致する発現パターンを示すことを明らかにしたが、実験系の性質として後述のような不確定要素が含まれているため、この部分の再現性を固めておくのは重要である。 一方で「発生」については、本年度、一つの候補遺伝子を同定した。こちらは、正常組織では発現せずにがん化に伴って発現誘導される等、絞り込みの基準がはっきりしており、すぐに機能解析へと進むことができた。この遺伝子に関する過去の報告からも、我々の想定と合致するような機能が示唆されていたが、当初の結果からも、その可能性を支持するものが得られている。次年度に、更に機能解析を進めていくための足固めはできたものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
自然退縮への関与を考えているこの遺伝子に関しては、各個体間における発現量を定量比較する際、対象としている最初期がん段階のSMG(原発組織である交感神経節)における神経芽細胞(がん細胞)の含有量の差を考慮する必要がある。ある個体で発現量が多く、別の個体で少なかったとしても、前者のSMGに含まれる神経芽細胞の数が多かった場合には、細胞あたりの発現量には差がない可能性もあり得る。これまでは神経芽細胞でのみ発現しているMYCNの発現量を用いて細胞数の補正を行ったが、その妥当性も含めた検討がもう少し必要だと考えられる。 発生に関わる候補遺伝子については、比較的はっきりした基準で同定し、初期の解析でもポジティブな結果が出ているので、引き続き最終年度に機能解析を精力的に行い、神経芽腫における機能とその重要性を明らかにしていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の進行上、重ねて再現性の確認を行った方が良いと判断したことで、消耗品費を多く計上していた「機能解析」の一部が、平成25年度から26年度へシフトしたため。 機能解析に必要なマテリアル(抗体や培養試薬等)の購入に用いる。
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