研究課題/領域番号 |
24590378
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐藤 朗 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70464302)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | Wnt5a / 腸管炎症 / 遺伝子改変マウス / 炎症性サイトカイン / Wntシグナル伝達経路 / β-カテニン非依存性経路 |
研究概要 |
炎症性疾患におけるWnt5aシグナルの役割を明らかにするために、私共はこれまでに①薬剤(DSS)誘発性腸管炎症モデルにおける潰瘍部位においてWnt5aの発現が亢進すること、②Wnt5aへテロKO(+/-)マウスでは、野生型マウスと比べてDSS誘発性腸管炎症が軽減することを見出した。このことは、Wnt5aシグナルが腸管炎症を増悪させることを示唆しているが、その分子機構は不明である。 本年度は、 1) 全身にタモキシフェン誘導性Creが発現するCAG-CreERTマウスとの掛け合わせを行い、成体において時期特異的にWnt5a遺伝子の欠失(conditional KO: cKO)を引き起して、DSS誘発性腸管炎症における表現型を解析した。その結果、CAG-CreERT Wnt5a cKOマウス(以降Wnt5a cKOと表記)は、コントロールマウスに比べて、DSS誘発性腸管炎症の程度が軽減することを見出した。Wnt5a cKOマウス由来の大腸とコントロールマウス由来の大腸における遺伝子発現を解析した結果、IL-6、TNF-α、IFN-γ等の炎症性サイトカインの発現が、cKOマウスにおいて減少することが判明した。さらに、Wnt5aの受容体であるRor2遺伝子のヘテロマウス(Ror2 +/-)においても、同様にDSS誘発性腸管炎症の程度が軽減することを見出した。 2) Wnt5a遺伝子欠失により腸管炎症に耐性を示す大腸の組織レベルでの免疫組織学的観察を行った結果、少なくとも潰瘍部位におけるマクロファージ、好中球等の単球の浸潤は、CAG-CreERT Wnt5a cKOマウスとコントロールマウス間で有意な差は観察されなかった。 本年度の解析結果は、Wnt5aシグナルを介する腸管炎症増悪機構解明の一助となると考えられ、学術的に意義深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Wnt5aヘテロ(+/-)遺伝子改変マウスでのDSS誘発性腸管炎症に対する耐性を、時期特異的遺伝子改変マウス(CAG-CreER Wnt5a cKOマウス)において同様に観察できたことは評価できるが、成体におけるWnt5aシグナルが腸管炎症の増悪を引き起こす分子メカニズムは依然として不明である。そのため、上記の評価となった。
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今後の研究の推進方策 |
個体レベルでの表現型の観察は大旨進んでいるのだが、Wnt5aシグナルが腸管炎症の増悪を引き起こす分子メカニズムを解析するためのin vitroの実験系の確立が遅れている。そのため、繊維芽細胞、マクロファージ、樹状細胞等の細胞をコントロールマウスとWnt5a cKOマウスからそれぞれ単離してWnt5a遺伝子欠失による炎症応答に対する影響を、サイトカイン遺伝子の発現を指標としたRT-PCRやELISAを用いて解析する予定である。また、Wnt5a受容体であるRor2のcKOマウスとCAG-CreERT Tgマウス(全身にタモキシフェン誘導性Creが発現する)やMx-Cre Tgマウス(血球系細胞においてCreが特異的に発現する)との掛け合わせを行い、Wnt5a受容体の欠失がDSS誘発性腸管炎症の表現型を示す組織・細胞群を明らかにする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究室ならびに本学共同実験棟には本研究を遂行するために必要な設備が設置されており、これらを使用する予定である。そのために、新たに設備備品費を購入する必要は無いが、下記項目において研究費を使用する計画である。 ①消耗品費:1)哺乳動物細胞を培養する際に使用する大量の牛胎児血清や培地、培養器具。2)タンパク質の発現やsiRNA によるノックダウン実験に必要な高額の分子生物学用試薬。3)タンパク質の機能解析する際に必要な抗体とその組織染色、western blotting に使用する試薬、実験器具。4)マウスの購入費と飼育費。 ②旅費:本研究の成果を発表するために、学会に参加し研究発表を行う。 ③その他:本研究を遂行するために必要な印刷費、通信費。また、研究成果発表のための学術論文投稿料や論文印刷代。
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