炎症性疾患におけるWnt5aシグナルの役割を明らかにするために、私共はこれまでに①薬剤(DSS)誘発性腸管炎症モデルにおいてWnt5aの発現が潰瘍部の繊維芽細胞で亢進すること、②タモキシフェン誘導性時期特異的Wnt5a conditional KO (Wnt5a cKO)マウスではDSS誘発性腸管炎症病態が軽減すること、③Wnt5a cKOマウス由来の大腸において、腸管炎症時における炎症性サイトカイン(TNFα、IL-6、IL-12等)の発現が減弱すること、④Wnt5a cKOマウス由来の腸管では、コントロールマウスと比較してIFNγ産生CD4陽性T細胞(Th1細胞)の割合が減少し、これは樹状細胞が分泌するIL-12(Th1細胞分化に必須なサイトカイン)の発現量が減弱するためであることを見出した。本年度は、 1)Wnt5a受容体Ror2の血球系細胞特異的cKO (Ror2 cKO)マウスにおいてもDSS誘発性腸管炎症病態の軽減が観察された。また、Ror2 cKO由来の腸管樹状細胞においてもIL-12等の炎症性サイトカイン発現の減弱が観察された。 2)Wnt5a cKOやRor2 cKO由来の骨髄由来樹状細胞(BMDC)では、コントロールマウス由来のBMDCと比較して、LPS刺激後のIL-12を含む炎症性サイトカインの発現が減弱することを見出した。 3)BMDCにおけるIL-12プロモーター解析をChIP assayによって行ったところ、Wnt5a cKOやRor2 cKOではLPS刺激後のNFκB等の転写因子のリクルートが減弱しており、ヒストンのアセチル化が減少していた。また、Wnt5a cKOとRor2 cKO由来のBMDCではIFNγ-STAT1シグナルへの応答性が減弱することが見出された。 本年度の解析結果は、Wnt5aシグナルを介する腸管炎症増悪機構解明の一助になると考えられ、学術的に意義深い。
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