研究課題/領域番号 |
24590379
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
枝松 裕紀 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70335438)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | がん / 炎症 / 細胞内シグナル伝達 / サイトカイン |
研究概要 |
腫瘍形成に関わるホスホリパーゼCε(PLCε)と炎症の役割について、細胞・個体レベルから分子レベルで以下の解析を進めた。(1)腫瘍形成・悪性化に関わるサイトカインとその産生機構:(a)腫瘍モデルを用いたin vivo解析。がん抑制遺伝子Apcに変異を持つApcMinマウスでのデキストラン硫酸ナトリウム飲水による大腸炎誘発性大腸腺腫形成実験を行った。その結果、PLCεのノックアウトにより、腺腫形成数の減少とその悪性進展が抑制される傾向が認められた。腸炎誘発時の腸管でのサイトカイン類の産生がPLCεのノックアウトにより抑制されることが分かった。(b)培養細胞を用いたPLCε依存的サイトカイン産生機構の解析。腫瘍壊死因子α(TNFα)刺激でケモカインCCL2をPLCε依存的に発現するヒト株化角化細胞(PHK16-0b)でのCCL2遺伝子のプロモーター解析を目的とし、プロモーター・ルシフェラーゼ・コンストラクトの構築を行った。また、TNFα刺激によりPLCε依存的にCCL2を発現する細胞が、PHK16-0b細胞以外にもあることを明らかにし、PLCεによるCCL2の発現制御に一定の普遍性があることが示唆された。(2)癌遺伝子活性型変異が誘導する細胞死と炎症との関係:構成的活性型変異体H-Rasの発現を薬剤で誘導可能な株化細胞(iRas細胞)での無血清下での活性型H-Ras発現による細胞死をカスパーゼ3の活性化を指標に検討し、細胞の種類によってカスパーゼ3活性化が生じるものと生じないものがあることを、明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腫瘍モデルによる解析では、解析した個体数が少ないながらも、ApcMinマウスでのデキストラン硫酸ナトリウム飲水による大腸炎誘発性大腸腺腫形成へのPLCεの関与の可能性を示唆することが出来ている。年度末までに、解析待ちの標本を多数の個体から取得しており、研究は順調に進行している。また、培養細胞を用いたPLCε依存的サイトカイン産生機構の解析では、CCL2遺伝子の活性化へのPLCεの関与を解析する為に必須であるプロモーター・ルシフェラーゼ・コンストラクトの構築を済ませていること、さらにTNFα刺激よるCCL2発現誘導へのPLCεの関与の普遍性を示すことが出来たことから、次年度以降の研究の発展につなげる準備が完了した。一方、癌遺伝子活性型変異が誘導する細胞死と炎症との関係では、iRas細胞での無血清下での活性型H-Ras発現によるカスパーゼ3活性化に細胞種特異性を明らかに出来たので、今年度の目標としていた細胞死の特性の解析はおおむね順調に進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
腫瘍モデルによる解析では24年度末までに取得した標本の解析を行い、ApcMinマウスでのデキストラン硫酸ナトリウム飲水による大腸炎誘発性大腸腺腫形成へのPLCεの関与を確立する。さらに、腺腫形成へのPLCεの関与を分子レベルで明らかにするために、腫瘍組織でのPLCεの発現(特に、腫瘍悪性度との相関性について)を明らかにする。培養細胞を用いたPLCε依存的サイトカイン産生機構の解析では、角化細胞(PHK16-0b)でのCCL2遺伝子の活性化へのPLCεの関与の機構について、ルシフェラーゼ・アッセイとクロマチン免疫沈降法による解析を行い、プロモーター活性化に至るシグナル伝達系を解析する。さらに、大腸など皮膚以外の由来を持つ株化細胞も活用し、炎症や腫瘍形成に関与するサイトカイン産生へのPLCεの関与の機構を、分子レベルで解析する。一方、癌遺伝子活性型変異が誘導する細胞死と炎症との関係では、iRas細胞での無血清下での活性型H-Ras発現によるカスパーゼ3活性化のみならず、他のシグナル伝達系への効果についても明らかにしていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は、研究代表者のこれまでの研究成果の発展を目的としたものであった。したがって、実験材料については過去の研究での蓄積があり、24年度はそれらを当初の計画以上に活用できたことから、予定していたほどの研究費の執行はなかった。25年度は、24年度に構築した様々な実験系を用いた解析に移行していくので、新たな実験材料、研究用試薬・キット類の購入を行う計画である。
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