研究課題/領域番号 |
24590379
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
枝松 裕紀 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70335438)
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キーワード | がん / 炎症 / 細胞内シグナル伝達 / サイトカイン / 細胞死 / 代謝 |
研究概要 |
腫瘍形成に関わるホスホリパーゼCε(PLCε)と炎症の役割について、以下の解析を進めた。 1、腫瘍形成・悪性化に関わるサイトカインとその産生機構:(1)腫瘍モデルを用いたin vivo解析。腫瘍形成誘発に用いたデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)飲水による大腸炎へのPLCεの関与について検討した。PLCεノックアウトによりCxcl2に代表される炎症性サイトカインの産生が腸管上皮細胞において著しく減弱すること、さらにこれらの細胞でPLCεが高発現していることから、PLCεがこれらの細胞でのサイトカイン産生に重要であることが示唆された。(2)培養細胞を用いたPLCε依存的サイトカイン産生機構の解析。腫瘍壊死因子α(TNFα)刺激によるサイトカイン産生機構について培養細胞でのsiRNAによるPLCεノックダウン実験により進めた。その結果、結腸癌Caco-2細胞では、PLCεノックダウンがサイトカイン遺伝子活性化に関わる持続的NF-κBの核移行を抑制することを見出した。その際のPLCε活性化に関与する液性因子の1つを、細胞膜受容体アンタゴニストによる阻害実験で見つけた。 2、癌遺伝子活性型変異が誘導する細胞死と炎症との関係:構成的活性型変異体H-Rasの発現を薬剤で誘導可能な細胞(iRas細胞)での無血清下での活性型H-Ras発現による細胞死とカスパーゼ3の活性化機構を解析した。キナーゼ阻害剤を用いた解析から、ストレス応答性MAPキナーゼ阻害剤がカスパーゼ3活性化を阻害することを見出し、この細胞死へのストレス応答性MAPキナーゼの関与が示唆された。さらに、培地からのグルコースの除去が効果的にカスパーゼ3活性化と細胞死を抑制すること、一方で血清中に存在する非ペプチド性因子を10%血清相当濃度で無血清培地に添加することでカスパーゼ3活性化と細胞死を阻止することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
個体モデルによる解析では、DSS飲水による実験的潰瘍性大腸炎においてPLCεが機能を果たしている細胞の同定に至った。今後のin vivoにおけるシグナル伝達経路の解明に必要な基礎的データを取得できており、研究は順調に進行している。また、培養細胞を用いたPLCε経路を介したサイトカイン産生機構の解析では、TNFα刺激よるサイトカイン産生におけるNF-κBの核移行へのPLCεの関与を明らかにしたこと、またTNFαで刺激された細胞でのPLCε活性化に関わる液性因子の候補同定に至ったことから、次年度の研究でのPLCεシグナル伝達系解析とその個体における腫瘍形成と炎症における意義の解明が進むことが期待できる。一方、癌遺伝子活性型変異が誘導する細胞死と炎症との関係では、iRas細胞での無血清下での活性型H-Ras発現によるカスパーゼ3活性化に関わるストレス応答性MAPキナーゼ系とこれを負に制御する培地中因子の同定が進んだことから、この細胞死シグナル伝達系の解明に向けて大きく前進した。
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今後の研究の推進方策 |
PLCε依存的サイトカイン産生機構の解析を進める。25年度までに明らかとなったTNFα刺激によるPLCε活性化に要求される液性因子を確定するとともに、その受容体からPLCεに至る経路を解明する。また、PLCεを介した炎症性サイトカイン遺伝子活性化におけるNF-κBの重要性についても確立する。培養細胞を用いて明らかとなったPLCεを介するシグナル経路について、個体における腫瘍形成や炎症での機能の有無について、これまでの腫瘍形成モデルや潰瘍性大腸炎モデルによって得られた標本を材料に解析を進めて明らかにする。癌遺伝子活性型変異が誘導する細胞死については、iRas細胞での無血清下での活性型H-Ras過剰発現によるストレス応答性MAPキナーゼ活性化・カスパーゼ3活性化につながるシグナル伝達系を同定する。さらに、同定されたシグナル伝達系と炎症との関連性について、動物実験モデルでこれまでに得た組織標本を用いて解析を行い、その生理的意義を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究は、研究代表者のこれまでの研究成果の発展を目的としたものであった。したがって、研究材料については過去の研究での蓄積があり、25年度はそれらを当初の計画以上に活用できたことから、研究費の執行額が予定を下回った。 26年度は、25年度までの結果を踏まえた研究の最終段階へ移行していくので、新たな実験材料、研究用試薬(特にsiRNAによるノックダウン実験に使う試薬類、細胞内シグナル系を解析する為の抗体類)・キット類の購入を行う計画である。
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