腫瘍形成に関わるホスホリパーゼCε(PLCε)と炎症の役割について、以下のように解析した。 1.腫瘍形成・悪性化に関わるサイトカイン産生制御へのPLCεの関与の機構:ヒト結腸がんCaco-2細胞、およびヒト胎児腎由来AD293細胞を用いたin vitro系でのPLCε依存的サイトカイン産生機構の解析を進めた。これらの細胞では、腫瘍壊死因子α(TNFα)刺激によるCXCL8やCCL2など炎症性サイトカインmRNA発現上昇がsiRNAによるPLCεのノックダウンにより抑制、PLCεの過剰発現により上昇することを確認した。また、Caco-2細胞ではPLCεのノックダウンにより転写因子NF-κBの持続的核移行が抑制されたが、それはNF-κBを細胞質に留めておく機能を持つIκBのリン酸化とそれに引き続くIκBの分解の抑制を伴っていた。以上のことから、PLCε経路がIκBのリン酸化亢進に関与することが分かった。次に、PLCεによる制御を受けるIκBリン酸化酵素の同定を試みた。各種阻害剤を用いた実験とPLCεノックダウン実験から、IKK以外のリン酸化酵素の関与の可能性が示された。 2.癌遺伝子活性型変異が誘導する細胞死と炎症との関係:無血清下での構成的活性型H-Rasが引き起こす細胞死関連酵素カスパーゼ3の活性化が10%血清相当濃度の亜鉛添加やグルコース除去により抑制される機構について、解析を進めた。培地からのグルコース除去がこのカスパーゼ3活性化の阻害に効果的であったことから、糖代謝経路の関与が疑われた。そこで代謝関連酵素を中心に、活性に関わる翻訳後修飾が亜鉛と活性型H-Ras発現の有無により変化するものを探索した。その結果、無血清下での活性型H-Ras発現よる翻訳後修飾が培地中の亜鉛とグルコースの濃度により影響を受けていると思われる蛋白質を見出した。
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