研究課題
ヒト不死化乳腺細胞MCF10Aは増殖因子epidermal growth factor (EGF)依存的に細胞増殖を行う。昨年度の研究の過程で、2次元培養時に使用する増殖因子によって異なる細胞の増殖形態を誘導することができた。最終目標であるはSTATを活性化するサイトカインIFN-gammaとIL-6の影響を調べるためには、定常状態の細胞がどのような性質を維持しているかを厳密に定義しておく必要がある。そこで本年度は、MCF10Aの増殖形式に関する解析を行った。概要は以下の通りである。増殖因子EGFファミリーに属するEGFとAmphiregulin (AREG)は、いずれもEGF受容体 (EGFR/ErbB1)に結合して、MAPキナーゼ経路等を活性化する。我々はMCF10Aにおいて、EGFが細胞間接着の比較的弱い間葉細胞様の表現型を誘導する一方、AREGは細胞間接着が非常に強固な上皮様の表現型を誘導することを見出した。この結果は、EGFRの活性化様式が2つのリガンドで異なり、全く別の表現型を生み出すことを意味する。この分子メカニズムを解析した結果、EGFがMEK1-ERK2経路を強く活性化する一方で、AREGでは同経路の活性化は弱く、この違いが転写因子ZEB1の遺伝子発現を制御することで、E-cadherinの発現変化と細胞間接着の変動をもたらすことが示唆された。異なる細胞の状態を生み出す分子機構をさらに詳細に解明することで、がん化をもたらす細胞の定常状態を定義できる可能性が考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本年度のポイントは、2次元培養時の環境が細胞の定常状態に大きな影響をもたらすことを分子レベルで明確に示すことができた点である。昨年度の課題であったFRET解析については、京都大学との共同研究によって、ErkのFRET解析が可能となった。
EGF受容体経路のシグナル強度によって2次元培養時の細胞の定常状態を決定することが分かったため、今後は、3次元培養時の腺房様構造の構築に及ぼす影響を解析する。また異なる細胞の状態を生み出す分子メカニズムのさらに詳細な解明、及び、乳腺細胞の可塑性についても影響を調べる。これらの解析の中にIFN-gammaとIL-6を組み入れることで、STAT経路の影響を解析する。
マイクロアレイ解析のサンプル数を減らすことができたため、経費を節約することができた。シグナル伝達経路解析のための抗体を購入する必要があるため、次年度の助成金を充てる予定である。
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